自分で自分にガヤを入れる、本木雅弘のひとりひな壇
#テレビ日記 #本木雅弘
本木雅弘「こうやって密着って言いながら、本当のプライベートを追ってるわけじゃないじゃないですか」
声が減る番組もあれば、声が増える番組もある。
コロナ禍で新たな収録が難しいロケ番組などは、今のところ再放送が行われている。このとき、副音声が新たに付け加えられる場合がある。たとえば、『有吉の壁』(日本テレビ系)や『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)など。ドラマでも、『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)が再放送となった際は、伊集院光と古市憲寿が副音声でツッコミを入れていた。
別角度から本編の魅力を照らし出す副音声が、単なるオマケではない独自の面白さを生む。これまでにも『テラスハウス』などで取り入れられていた手法だけれど、同様の番組は増えるのかもしれない。
そんな中、少し異色の副音声番組が放送されていた。10日の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)。この日は、3月28日に放送された本木雅弘への密着が再放送されていたのだけれど、その本編に副音声を乗せていたのは、ほかでもない本木自身だ。
対象者の仕事や私生活に密着してきた同番組。3月末に放送された本木の回も、大河ドラマの撮影や、家庭での顔などにカメラは迫っていた。ただ、ほかの回と大きく異なっていたのは、本木がカメラを持って、同行するスタッフに終始しゃべり続けていたことだ。
で、本木のその語りは、とにかくややこしい。ああでもない、こうでもないと自問自答が続く。反省に反省を重ね、さらに反省を重ねる。
そもそも、密着冒頭から、本木はスタッフにこう告げるのだ。
「これホントにね、こうやって密着って言いながら、本当のプライベートを追ってるわけじゃないじゃないですか」
プライベートの場面も含め、カメラに映るのは常に演技している自分であり、素の自分ではない。そのことを、本木はカメラの前で繰り返し確認し続けるのだ。自分から素のようなものが漏れ出すと、即座に自分でそれを否定し、演技臭さを指摘したりもする。たとえば、こんなふうに。
「自分自身にも本当の自分は明かしたくないみたいな。そういうところがあるのかな。……なんて言ってると、すごく正直に話してる人みたいですよね」
これに、さらに副音声が重なる。副音声でも、本木は自問自答を続ける。映像の中の自分にツッコミを入れる。SNSに誰かが書き込んだ自分への批判を読み上げたりもする。ぐねぐねとうねる本木の思考回路が、さらにうねりを増す。
いわば、ひとりひな壇状態。自分で自分にガヤを入れ、そんな自分に、さらにガヤを入れる。幾重にも重なる声。そんな本木の表現者としての向上委員会。
番組の最後、副音声で本木は語る。
「結局、はっきりとした結論めいたことは言えないんだけども、このドキュメンタリーの中で、自分を自分で演じていたというこのさらし方は、紛れもなく自分の素であったっていうことは真実なんですよ」
最後までややこしい。個人的にはその姿をとても魅力的に感じるけれど、受け付けない人もいるだろう。いずれにしても、このひとまず語られた結論に対しても、きっと本木はひとりでガヤを入れるはずだ。
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