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「ニューノーマル」化する飲食業界関係者のホンネ…出遅れた業者はデジタル化煽る商材に注意

イメージ画像/出典:Luke,Ma

 新型コロナウイルスの影響が如実に現れている業界のひとつに、飲食産業がある。筆者自身若かりし頃、飲食業界でアルバイト先に加え寝食まで世話になった身。ニュースなどを通じて伝え聞くその現状がとても心苦しくある。

 一方で、最近では「ニューノーマル」という言葉が流行し始めている。新型コロナウイルスの影響で始まる「新しい日常・状態」という意味だ。とても曖昧模糊としていて、個人的にはあまり中身のない空虚な言葉だと思うが、ひとつだけ的を射ていると思える定義がある。

 それは“「物理的空間の制約」を受ける日常・状態”が、すなわちニューノーマルであるというものだ。もう少し嚙み砕くと、「これまで使えたはずの空間が使えず、人と人の距離を保つ必要があり、移動も制限されること」が、我々の一般的な暮らし方(=ノーマル)になるという意味だろう。飲食店の現状に即して言えば、店舗に人が来づらくなる、来たとしても同じスペースに入れる客数は制限されるほか、海外や地方などから集客が難しくなるといった日常がニューノーマルといったところだ。

 そして、そんなニューノーマルに対する飲食業の対抗策として盛んに叫ばれているのが、オンラインサービスの利活用(=デジタルトランスフォーメーション、DX)、そしてウーバーイーツなどITサービスの駆使だ。

 ただこのような安易な“デジタル万能論”に根差した問題解決策に対して、苦々しく思う飲食業界関係者も少なくないようだ。コロナ禍にいち早く対応し、配達や弁当サービスで多くの注文を受けつけているA氏は言う。

「例えばSNSで集客してウーバーイーツなどの配達サービスを駆使したとしても、根本的な解決にはならないですね。多くの飲食店は、原価が高いメイン料理のほかに、酒類やドリンク、サブメニューにご飯ものなどを組み合わせて、商品ラインナップを調整している。弁当や配達は主にメイン料理を使うので、商品原価がとても高くなります。配達の売り上げですべての経費をまかなうとしたらべらぼうな金額になるし、その分値段を上げてしまえば、お客さんにも悪い。『店舗がダメなら配達で』と全面的にすぐに切り替えられるほど、飲食店経営は単純じゃないと実感してます」

 なおA氏の店は、弁当や配達だけで多い日で数十万円もの売り上げが立つ日もあるというが、原価が非常に高くつくため利益はほぼないとのこと。「いつかまたお店に来てもらう日のための、つなぎの商いだ」と言い切る。

 また別の飲食業者B氏は「そもそも我々は弁当屋ではないし、YouTuberでもない」とし、デジタルやITサービスがすべてを解決するという風潮に苛立ちを隠さなかった。

「普段、食べログやぐるなびなどのSNSを使って集客するのも、今Uberを使って弁当の配達を行うのも、最終的にはお店に来てもらって、料理や楽しい時間を過ごしてもらいたいから。では、料理とともに味わってもらう場の雰囲気や、友人・家族との一体感・思い出をオンラインで提供できるでしょうか? 私は絶対に不可能だと思います」

 実際にB氏がいうような、店舗で親しい人たちと一緒においしい食事を共にとる感覚――いわばオフライン店舗の固有の体験をデジタル化してくれるサービスは存在しない。そして今後も、長らく生まれることはないだろう。技術的にほぼ不可能だからだ。デジタルサービスを駆使してテイクアウトや弁当販売で営業すればもちろん、多少の売り上げは補填していけるかもしれないが、飲食店が提供している本質的な価値の数々はデジタル化もIT化もできない。

 むしろ過去には、一部飲食ポータルなどITサービスの歪んだ評価や商法が、リアル店舗の価値や生態系を破壊してきたという側面すらあることは忘れてはならない。

「とはいえ私個人的としては、元の日常に戻るまでどう生き抜いていけるかというノウハウが欲しい。コロナ禍が数カ月間で終息しても、その先1~2年は客足が少なくなるでしょう。そうした時に店のオペレーションを段階的にどう調整すれば生き残れるか、もしくは来客を担保できる消毒や喚起など感染予防の助言やガイドラインでもいい。デジタル・オンライン施策がその一部なのであれば喜んで受け入れます」(B氏)

 そう聞くと、飲食店の多くは「ニューノーマル」に対応することよりも、これまでの日常をどう取り戻せるかを真剣に悩み考えているのかもしれない。それは、単純なデジタル化では解決できない「飲食店の価値をどう守るか」という、本質的な悩みと言い換えることができるのではないだろうか。つまりは、「どうすれば人と人の接触を避けられるか」ではなく、「どうすれば人と人が接触できるようになるか」である。

 なお個人的には、ニューノーマルに適応できる業界は対応すべきだし、そうできない業界は日常を取り戻すべく業界努力を続けるべきだと思う。なぜなら、デジタル化が絶対に不可能な業界というのもまた、存在するからだ。もしかしたら、完全自動化された狭いスペースでロボットが料理を量産し、ITサービスで配達が完了するニューノーマルな飲食店もありえるのだろう。しかし、それは多くの飲食店従事者にとっては“望む姿”ではないはずだ。

 なお今後、飲食業界のみならず、さまざまな業界でニューノーマルへの対応としてデジタル化を煽る商材がどんどん生まれてくるはず。その担い手は大手メディアかもしれないし、ビジネスコンサルかもしれない。もしくはIT企業やベンチャー企業かもしれない。すでに怪しい案件もちらほら出てきているという。そこで怪しい情報に流されたり、騙されないためにもまず、「自分たちが提供している価値はデジタル化できるのかどうか」をまず、各ビジネスパーソンは考えなければならないはずだ。

 B氏が取材の最後で、「飲食店の多くは現在、藁にもすがる想いで情報を探している」と現状を話したことが印象的だった。コロナ禍を乗り切る正しい情報が、ひとつでも多くの飲食店に伝わることを願うばかりだ。

河 鐘基(ジャーナリスト)

リサーチャー&記者として、中国やアジア各国の大学教育・就職事情などをメディアで発信。中国有名大学と日本の大学間の新しい留学制度の設置などに業務として取り組む。「ロボティア」「BeautyTech.jp」「Forbes JAPAN」など、多数のメディアで執筆中。著書に「ドローンの衝撃 」(扶桑社新書) 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」 (扶桑社新書)、共著に「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」 (光文社新書)など。

Twitter:@Roboteer_Tokyo

はじょんぎ

最終更新:2020/05/14 12:12
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