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日刊サイゾー トップ > 社会  > 壮絶DVから回復した夫婦
「モラハラのトリセツ」第9回

夫は逮捕され、シェルターに逃げ込んだ妻……同級生夫婦が壮絶DVから回復するまで(前編)

“お礼参り対策”でシェルターに避難するも、違和感を覚え……

 Hさんには、いったん実家に帰る選択肢もあったのですが、Hさんの両親は「子どもなんて動物と一緒だから、殴ってしつけないといけない!」という価値観を持っており、そんな両親と一緒に暮らすのも避けたかったHさんは、DV被害者カウンセラーに相談し、シェルターに入れることになりました。(Kさんの)勾留期限があるので、“お礼参り対策に引っ越しなさい”と周囲からアドバイスされたという背景もありました。

 シェルターは外出や連絡の手段に厳しい制限がかかっていたそうで、入るときにスマホも預けました。これは安全のため、物理的にDV被害者を加害者から切り離す対策の一環のようです。

 女性団体の相談員にも、何度も「DVは絶対に治らないから、別れるしかない。別れなさい」としか言われなかったことがどうしても釈然としなかったというHさん。ほかにいくつもの公的機関にも相談してみましたが、みんな言うことは同じでした。

 この点、第6回に登場した女性モラハラ加害者、Nさんと状況が少し似ています。DVやモラハラは「攻撃された」と感じた加害者側が、「傷ついた」ときに、一種の防衛行動として起こしてしまうことを僕は繰り返し書いていますが、KさんのDVにも過剰防衛という側面はありました。

 家にもっとお金を入れてほしい、家事育児に積極的に協力してほしい、妻としては当然の要求とはいえ、それはKさんの状況を考慮せずに「こうあるべき」を押し付け、追い詰めることでもあったのです。

「上司の前で恥をかかせた」時と同様、HさんがKさんの防衛行動のトリガーを引いてしまったこともあった、Hさん本人にはその「加害者性」を多少なりとも持っていた自覚があったのですが、一般的なDV相談窓口ではそれは「なかったこと」にされて、「かわいそうな被害者」のレッテルを貼られてしまいます。本来は被害者にも必要な「加害者性」のケアは行われません。

 加害者は逮捕して社会から追い出して、離婚して、はい終わり――。当然のように「被害者」としてのレールに乗せられる感じが嫌だったとHさん。そんなある日、シェルターにある図書室で、加害者の脱暴力について書かれた本を見つけます。どこでも「治らない」と決めつけられていたDVが「治る」のかもしれないという希望が書かれていました。

 この本の著者は、僕の師匠でもある味沢道明さん。加害者の脱暴力を目指すための支援者です。DVの加害者も被害者も、男女関係なく集まるという脱暴力グループワークの実践について書かれたその内容は、Hさんにとってとても新鮮で、また、加害者の話も丁寧に聞いてくれるというのが印象的だったといいます。

 Hさんはシェルターを出てすぐ、味沢さんが代表を務める日本家族再生センターへ問い合わせました。

 そうして翌月には、当時1歳の子どもを連れ、実際にグループワークに参加することになりました。当時、モラハラ当事者として参加数カ月目の僕も、ここで初めてHさんにお会いしました。これが今から6年前になります。

 ここから、Hさん・Kさんの長い時間をかけた回復が始まっていきます。
(後編へ続く)

註1:DVやモラハラの加害者も被害者も、男女関係なく集まる当事者会で、それぞれが心に抱えた傷を癒やし、自分の価値観を語り、相手の価値観に耳を傾け、DVをしない、受けないためのコミュニケーションを身につけていく場所

中村カズノリ(なかむら・かずのり)

1980年生まれ。WEB系開発エンジニアの傍ら、メンズカウンセリングを学び、モラハラ加害者としての経験をもとに、支援を行っている。

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Twitter:@nkmr_kznr

なかむらかずのり

最終更新:2020/05/14 10:24
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