感動ポルノではない、バリアフリーな冒険ドラマ いつか出会う、もう一人の自分『37セカンズ』
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魂の片割れとの再会
冒険の旅に出たユマは、長い間失われていた自分の人生を取り戻していく。気のいい介護士の俊哉が、ユマの車椅子に寄り添う。この2人の旅を見ていて、手塚治虫原作の懐かしい時代劇アニメ『どろろと百鬼丸』(フジテレビ系)をふと思い出した。百鬼丸は生まれた直後に魔物たちに奪われた体の48カ所を奪い返すため、全国津々浦々に潜む魔物たちを退治して回る。魔物を倒すたびに、百鬼丸は手足をひとつずつ取り戻すことになる。旅のお供をするのは、性的アイデンティが定かでない孤児のどろろだった。体と心の欠落感を埋めるため、百鬼丸とどろろは旅を続ける。
ユマだけでなく、健常者である俊哉も心のどこかに欠落感を抱いているのではないだろうか。口数のあまり多くない俊哉は、父子家庭で育ったことぐらいしか自分の過去は語らない。だが、インスタントラーメンにレモンを絞る姿に、彼の孤独さがにじみ出ている。実社会ではなかなか感じられないリアルさ、生き甲斐を、介護士の仕事に求めているように思える。ユマの冒険に付き添うことで、俊哉自身も心の欠落感を穴埋めしようしているかのようだ。
思いがけず海外にまで飛び出すことになったユマは、旅の終わりにもう一人の自分に出会う。失くしていた魂の片割れとの再会だった。自分にそっくりなドッペルゲンガーとの遭遇は「死の予兆」ともいわれているが、ユマはもう一人の自分と出会うことで、それまでの自分を葬り去る。おそらく、ユマは自分に障害をもたらした「37秒間」をずっと呪い続けてきたに違いない。だが、旅の目的を果たしたユマは、自分で自分に掛けていた「呪い」を解くことに成功する。
呪いから解放されたユマには、世界がキラキラと輝いて映る。車窓からの眺めは美しく、空を羽ばたく小鳥たちはユマを祝福するかのようにさえずっている。ユマの目線を通して、この物語を体感してきた我々も実感する。世界はとても広く、可能性に満ちあふれているのだと。
『37セカンズ』
脚本・監督/HIKARI
出演/佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真紀子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり、板谷由夏
配給/エレファントハウス、ラビットハウス PG12
(c)37Seconds filmpartners
※Netflixで配信中。劇場での上映は『37セカンズ』公式サイトでご確認ください
http://37seconds.jp
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