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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > サッカーメディアの今後は?
サブスク参入、新型コロナ、2050年の日本代表はどうなる?

異端のサッカー誌「フットボリスタ」編集長が語るサッカーメディアの今後

雑誌も偶数月で刊行されている『footballista(フットボリスタ)』

 ヨーロッパから南米まで、世界中の最先端の戦術からクラブ経営の裏側まで多角的に取り上げ、サッカー好事家から高い支持を集めるサッカーメディア『footballista(フットボリスタ)』が今年3月23日からサブスクリプション・サービスを開始した。サブスク流行の昨今ではあるが、スポーツメディアのサブスク・サービス参入は珍しい。雑誌のイメージも強い同メディアは一体なぜ今、新たなサービスをスタートさせたのか。また新型コロナウイルスの拡大でサッカーメディアにはどのような影響を与えるのか。浅野賀一編集長に聞いた。

ーーサブスク・サービスのスタートおめでとうございます。図らずも大変な時期でのスタートになりましたね。

浅野:はい。ただ、おかげ様で初動は順調に会員に入ってもらっています。

ーー『フットボリスタ』のサブスクですが、そもそもいつ頃から構想していたんでしょうか。

浅野:オンラインサロンである『フットボリスタ・ラボ』をスタートさせたのが、ロシアW杯前の2018年5月でした。予想以上に多くの方に入っていただいて、『フットボリスタ』という媒体にロイヤリティを感じ、お金を払ってくれる読者の顔が見えました。

 それをきっかけに、ウェブのサブスク化を考え始めました。イメージとしては、一番上に月額5000円を払ってくれるロイヤリティの高い『フットボリスタ・ラボ』ユーザーがいて、次にサブスクで見てくれる読者、その次に無料で見る読者がいるピラミッド構造の新しいサッカーメディアです。

 紙は好きですが、サッカーに限らず雑誌のみでやっていくのは難しい。一方ウェブでも、毎日30~40本の記事を出して広告を回す無料のサッカーメディアはレッドオーシャンで、同じことをやってもしょうがないし、うちの媒体特性とも合わない。月合計のPVにこだわるのではなく、お金を払っても読みたい記事を作る。それを続けることでメディアとして信頼され、ブランドイメージを確立させる。サブスクはサッカーメディアとしての僕らの必然の行き着き先だと考えていました。

ーー昨年末、サブスク・サービス開始にあたり、浅野さんはサイトで声明を出しました。その中で「知的好奇心が旺盛な日本のサッカーファンは『現場レベルの知識』を求めるようになってきている」という部分にはなるほどなとうなずきました。

浅野 ウイークリーの時事ネタを伝えるサッカーの情報であれば、今はウェブでいくらでも無料で読める。読み切れないくらいの情報がある中で、1000円を払って雑誌を買うというのは、探究心が強くて勉強家で、コアな人たちだと思うんです。

 戦術を分析するだけじゃなく、その背景にある選手や監督、クラブの思想であったり、そのサッカーを実現するためにどういったトレーニングを実践しているのかという一歩踏み込んだ情報を求める層が我々を支持してくれている。そういう人たちが求める情報を提供することが差別化、価値になっていくと信じ、僕は「フットボリスタ」の編集長をやってきました。

 2010年代の欧州サッカーはものすごく進化し、資本が集まるようになり、世界中から優秀な人材が集まるようになってきた。ピッチの中の戦術、トレーニング、ビジネスもものすごく進化していったタイミングでした。

 欧州サッカーの最先端で何が起きているかをキャッチアップしたいという層は、クラブの現場から育成年代まで幅広くいて、そういう人たちが「フットボリスタ」の情報を評価してくれました。プロの現場からマニアまでが支持してくれるメディアとしての認知度は徐々に出てきたのではないかと感じています。結果、日本サッカー協会やJリーグの関係者であったり、現場の方の読者が増え、Jリーグの監督から「読んでますよ」と声をかけられる機会も増えました。

ーーサブスクの動画コンテンツの中でライターの北健一郎さんが「サッカーメディアは何十年に一回の変化の時が来ています」と語られていましたが、浅野さんも同じ思いですか。

浅野 ヨーロッパでの顕著な例として、クラブや選手がメディアのインタビューを受けなくなってきています。地元メディアや付き合いの長いメディアでも、余程のことがない限りはメディアのインタビューに出ない。出るのであればクラブのオフィシャル番組、もしくは自分のSNSで発信する。

Alex Caparros / 特派員(getty imagesより)

 バルセロナのDFジェラール・ピケは2016年、スペインのインディペンデントサッカーマガジンの『Panenka』のインタビューに出ていた際に「スペインのマルカのフォロワーが400万人、俺のSNSのフォロワーは1000万人を超えている。出る意味ある?」といった趣旨の言葉を語っています。

 半分はそれが真実なんですよね。クリスティアーノ・ロナウドのインスタグラムのフォロワー数は2億人を超えている。選手個人やクラブが発信力を持った時、メディアの取材を受ける必要がなくなってしまう。

ーーこれからのメディアはSNSのフォロワー数で勝る選手にとっても出る価値のある媒体にならなければいけない。

浅野 『Panenka』の話もそうですが、メディアは「自分たちが何をやりたい集団なのか」「どこを目指しているのか」を対外的に示し、個性を出していくことが大事です。僕らもやっていることを面白がってもらい「フットボリスタに載りたい」と向こうから声をかけてくれる人が増えました。ピケが『Panenka』でインタビューを受けたのも、メディアの方針を面白がってくれたから。これからの時代、読者に支持されることが一番大事ですが、サッカー関係者にも面白いメディアと思ってもらわないと生き残っていけない。

 もう1つの興味深い傾向として、選手への取材ができないことで、今までにはなかったような分析系記事であったり、取材を必要としないものを作るという流れが海外で起きています。その中でイタリアであれば『L’Ultimo Uomo(ウルティモ・ウオモ)』、ドイツからもコアな分析をするウェブメディア『Spielverlagerung(シュピールフェアラーゲルング)』が出てきた。

『L’Ultimo Uomo』はイタリアサッカー協会とアナリスト養成講座をやっていますし、『Spielverlagerung』で分析記事を書いていたレネ・マリッチはその分析力が評価され、当時レッドブル・ザルツブルクU-18でコーチをしていたマルコ・ローゼにスカウトされて、アシスタントコーチになりました。その後、マリッチとローゼはザルツブルクのトップチームに昇格し、チームはヨーロッパリーグの準決勝に進出。今年は2人は、ドイツ・ブンデスリーガのボルシアMGに移籍して旋風を巻き起こしています。

 こうしたメディアから現場という現象は日本でも起きてきています。手前味噌になりますが、JFL「奈良クラブ」監督の林舞輝さんはイングランドやポルトガルで指導を学んだ人なのですが、『フットボリスタ』でのインタビューや執筆した記事を見ていた奈良クラブに声をかけられた。ほかにもウェールズの大学で学び、『フットボリスタ』で記事を書いていただいた平野将弘さんはFC大阪のヘッドコーチになっています。東大ア式蹴球部の監督で東京ユナイテッドFCのコーチも兼任する山口遼さんもそうですね。いずれも20代前半の指導者たちです。

ーー大きな変化で言えば、新型コロナウイルスの影響はサッカー界にも及んでいます。ウェブメディアに関しては、広告単価が下がっているとよく聞きます。

浅野 まずサッカーチームがものすごく大きな影響を受けていますよね。コロナの影響が出てくるのはこれからだと思います。雑誌も大変です。書店がやってない状況なので。

 逆に、たとえ試合をやっていなくても雑誌が作れるというのは『フットボリスタ』の特異性かもしれません。もともとコアなサッカーファンの読者が多かったので、サブスクへの加入者、久々に募集した「フットボリスタ・ラボ」の会員もすぐ埋まりました。本当にコアにサッカーを語りたがっている人のニーズは落ちていないなと感じてます。

 今回の事態は日本のサッカーメディアの変わるきっかけかもしれません。先ほど語ったように選手個人、クラブのメディア化がヨーロッパでは起こっている。緩やかに日本でも起こりつつあったものが、コロナでさらに加速されていく。クラブや選手の情報発信がさらに増えていくのかなと感じています。

ーー今はクラブハウスに行って選手にと取材はできないですが、これがコロナが終わってもできなくなるかもしれない。

浅野 ヨーロッパサッカーとは認知度が違うので、Jリーグが急にメディアを締め出すようなことをしてもマイナスなだけだと思います。なので、自らの情報発信とメディアを使った情報発信が共存していく形になるんじゃないですかね。1つ言えるのは、オンラインインタビューはコロナ前からもっとやって良かったかもしれません。Jリーグクラブは日本全国に散らばっていて、面白い取り組みや人も全国にいるわけじゃないですか。ただ、そこに取材クルーで行って経費をペイできるかというと難しい。だったら全然オンラインでいい。

 僕らはヨーロッパの人にインタビューしていたので、オンライン取材は多かったんです。Jリーグの中でも理解してくれる人はオンラインでやっていただいたんですけど、今まではなかなか難しかった。でも今はJリーグも記者会見はZoomでやっています。

 この経験で、Jクラブでもオンラインで取材する取り組みがもっと広がっていくのかなと思います。もちろん現地取材の価値が一番高いのは忘れてはいけないんですが、選択肢はいろいろあっていいと思うんです。経費がネックで実現しなかった企画の可能性がもっと広がりますからね。

ーー先ほど指導者にも『フットボリスタ』に関わりの深い人が増えているとおっしゃってましたが、出身者にはサッカー界進出してほしいですか。

浅野 その人を採るかどうかはクラブの判断ですが、興味深い人材の発掘はやりたいですね。それが独自のコンテンツを作ることにもつながりますし。今、サッカークラブではアナリストが少ないと聞きます。テクノロジーは進化しているけれど、使う人材が育っていない。そもそもクラブにアナリストを雇用できる余裕がなかったり、アナリストの必要性が認識されていない。そういう専門人材を養成する講座を企画したり、いろんな専門家が交流できるカンファレンスも将来実現したいと考えています。

『フットボリスタ』の方針の1つとして、2050年の日本代表の優勝を後押しするというものがあります。もともとJFAは「FIFAワールドカップを日本で開催し、日本代表チームはその大会で優勝チームとなる」を大目標に掲げている。2050年は今から30年後。その時の日本代表の主力メンバーはまだ生まれてなくて、監督は今の20代くらいでしょう。ちょうど先ほど紹介した指導者たちの世代です(笑)。そう考えると『フットボリスタ』としても、もっとできることがあるんじゃないかと思います。

ーー最後に、今はまだ『フットボリスタ』に触れてない人へのメッセージをお願いします。

浅野 『フットボリスタ』は難解な記事、最先端の情報を伝えているので、長文で難しそうにみえたり、『フットボリスタ・ラボ』も戦術に詳しくないと入れないという誤解があるんですけど、実際はそんなことはない。いろんなキャラクターの人が入ってくれていて、だからこそ新しいコンテンツができる。新たにスタートさせたサブスクでも一方的にコンテンツを出すのではなく、フットボリスタの方針に共感してくれる仲間を増やしたいというか、一緒に良いものを作り、一緒に日本サッカーを良くしていきたい。そういう場になれるといいなと思います。

 10万人に届ける記事ではなく1万人、もっと言えばその情報を切実に必要とする100人に向けた記事を作っています。なので他に載ってない記事、自分にバッチリはまる記事に巡り合えるかもしれません。そんな記事に出会いたい人は、ぜひフットボリスタ・ラボやサブスクに入ってもらいたいです!

浅野賀一

1980年生まれ。2005年からフリーランスで、『エル・ゴラッソ』、『サッカー批評』などに寄稿。06年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、15年8月から編集長を務める。そのほか、サッカー関連書籍の編集も手掛けるほか自ら執筆もしており、西部謙司氏との共著『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

ライター。大学卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。記者として年間100日以上グラドルを取材。2016年にBuzzFeed Japanに移籍し、俳優、声優などのインタビューやエンタメの分析記事を担当。現在は退社しライターとして雑誌、ウェブで記事を執筆。

Twitter:@tatsunoritoku

個人メディア:https://outcas2.com

とくしげたつのり

最終更新:2020/05/08 18:05
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