『鬼滅の刃』で考える令和の組織論──『ドラゴンボール』『ワンピース』後の“戦い方”とは?
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単行本の累計発行部数が4000万部を突破し、「社会現象」となっているマンガ『鬼滅の刃』(集英社/吾峠呼世晴)。テレビアニメもヒットを飛ばし、10月には劇場版公開も控えている本作は、大正時代を舞台に、主人公・竈門炭治郎が家族を殺した鬼と戦いながら、鬼と化した妹・禰豆子を人間に戻す方法を探すストーリーだ。この一見シンプルな物語を、前回は産業医の大室正志氏がアドラー的自己啓発として読み解いた。
「アドラーは、我々は他者の期待を満たすために生きているのではない、として“承認欲求”を否定していますが、本作の主人公・竈門炭治郎も『世界を守りたい』や『強さを認められたい』といった承認欲求に紐づいた動機がないんです。ただ『鬼にされた妹を人間に戻したい』というひとつの目的だけを持って行動している。炭治郎は動機がはっきりしているため、『自分探し』をすることもない。これが、承認欲求疲れを起こしている現代ならではのヒーロー像なんでしょうね」
そう語る大室氏はさらに、本作の“価値観の現代っぽさ”についてこう言及する。
「これまでのジャンプ作品と比較するとわかりやすいと思うのですが、例えば『ドラゴンボール』の孫悟空って、誰かを救うために戦っているわけじゃなくて、“自分が強くなるために”戦ってるんですよね。対して、『ONE PIECE』はそれぞれ違った能力を持った“仲間”が集まって、協力し合い、補い合うことで勝ち進んでいく、という物語。この、“個人戦=カリスマ経営者が組織を引っ張る”時代から“チーム戦=それぞれの得意分野で補い合う”時代に移行した点は、まさに日本の経営のあり方に重なるところが多いのではないでしょうか。実際、今のスタートアップの人たちって『ONE PIECE』好きが多いですしね(笑)
一方で、『鬼滅の刃』はある種ハイブリッドで、個人の戦いでもあり、チームの戦いでもある。でもそれはあくまで『自分が強くなりたい』からでも、『チームで強くなりたい』からでもなく、やっぱり『禰?豆子を救いたい』からなんですよね。かつ、『鬼滅の刃』では“ライバル”という存在もほとんど出てきません。大義ではなく、自分の目的を果たしながら、“誰かと比べる”こともしない、という点に、“現代っぽさ”が映し出されているんじゃないでしょうか」
感情が薄そうだった霞柱・時透無一郎ですら、「何それ結局人任せなの? 一番だめだろうそんなの」(単行本14巻より)と、自らを鼓舞する『鬼滅の刃』。できれば全部人のせいにしたいし、頑張った時には世界中から褒められたいと思っているけど、『鬼滅の刃』を読んだ後だけは頑張れる気がする……きっと、そんな読者は、筆者だけではないのだ。
この先、どんな物語の展開が待っているのかはわからないが、リモートワークで怠けがちな今、どんな自己啓発本よりもまずは『鬼滅の刃』を読んで、自らを鼓舞してみてはいかがだろうか。
●大室正志(おおむろ・まさし)
1978年、山梨県生まれ。大室産業医事務所代表。産業医科大学医学部医学科卒業。都内の研修病院勤務、産業医科大学産業医実務研修センターを経てジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医、医療法人社団同友会産業医室を経験し、現職。専門は産業医学実務。メンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、生活習慣病対策など企業における健康リスク軽減にも従事する。現在日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業、独立行政法人など約30社の産業医を担当。
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