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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > コロナ以後の里山資本主義

感染リスクの高い東京から地方に移住すべき? 藻谷浩介が唱えるコロナ以後の「里山資本主義」

写真/Getty Images

『デフレの正体』(角川oneテーマ21/2010年)、『里山資本主義』(NHK広島取材班との共著/角川oneテーマ21/13年)といったベストセラーの著者である日本総研所属の地域エコノミスト・藻谷浩介とJapan Times Satoyama推進コンソーシアムによる『進化する里山資本主義』(ジャパンタイムズ出版)が4月末に出版された。

 新型コロナウイルスの感染者数は大都市部が圧倒的に多く、テレワークに切り替えられる仕事はどんどん切り替わっている今、都市部で働き、住むことの意味が改めて問われている。

 東京一極集中や拝金主義に異を唱え、地域内で自給、物々交換、贈与といったお金を用いない手法もバランスよく使い分けながら生きていく社会を目指す“里山資本主義”の考えが、今こそ響く人も多いのではないだろうか?

 藻谷浩介氏に、コロナ禍が都市生活者と里山資本主義の実践者たちに与えた影響について訊いた。

藻谷浩介・監修、Japan Times Satoyama推進コンソーシアム・編『進化する里山資本主義』(ジャパンタイムズ出版)

マスクも買う以外に手に入れることができる

――藻谷さんは“里山資本主義”という生き方を2013年から提唱されてきましたが、新型コロナウイルスの流行によって何か従来とは見解を変えないといけないと考えていることはありますか?

藻谷 「どうせ世に広くは受け入れられない」とひねくれて書きましたが、これで少し理解者が増えるのではないかと期待しています(笑)。まだまだ先は長いです。本を書くときには、1000年後に遺跡からに出てきて後世の人間に読まれても、「こいつ、古代人のわりには話がわかってるじゃん」と思われるのを目標にしていますから。

 里山資本主義とは資本主義の一種ですが、お金がすべての強欲資本主義とは違います。お金を稼いで使って暮らすのはいいとして、お金に頼らない“バックアップ”手段も生活に取り入れておきましょう、ということなのです。なんでもお金だけ、あるいは、なんでも自給自足と、「何か一本に絞って精進する」という発想では、いつか追い込まれて失敗します。人生にも社会にも、セカンドプランがなくてはいけません。お金を使わずとも、例えば自給、物々交換、恩送り(=余ったものをお互いににあげてしまうこと)などで、必要なものがある程度手に入るようにしておけば、いざというときにも困らなくなります。

 庭先、ベランダで野菜やハーブでも作って、余ったら近所にあげる。田舎に知り合いを増やして、いろんなものをあげたりもらったりする。そんなこんなで、1%か2%でもいいからお金なしで手に入るスタイルを作ることができれば、世界が違って見えてきます。将来に対する、得体の知れない不安感が急速に薄まっていくのです。今回のコロナ禍で、お金に100%頼って都市部で生きていくことのリスクを、改めて身に染みて感じている人も多いのではないでしょうか。なかなか売っていないマスクひとつとっても、誰かからもらえたり自作できたりする人と、買う以外に手段のない人で、安心感には大きな差がありますよね。

 自給、物々交換、恩送り、いずれも過疎地では当たり前に行われていることです。もちろん過疎地でも、地域おこしに頑張ってきた地域ほど、大都市やインバウンドに需要を頼っていた部分が大きく、今回受けている金銭的な打撃は大きいですね。でも、いろいろ最新情報を聞いてみると、どこでも“この際”とばかり里山資本主義が発動しているようで、売り上げゼロでも食べるのに困る人は出ていません。多くの過疎地では感染者も出ていないし、彼らの感じている安心感は、例えば東京23区や大阪の中心部で生きている人たちとはまったく違います。

上京する若者はどんどん増えていたが……

――ワクチンができるまでの少なくとも数年は、人口の密集度が高い都市ほど感染リスクが高いことを考えると、個人的な感覚では都市部に住むコストがこれまで以上に、割高に感じられるようになりました。藻谷さんはコロナの影響で地方移住者は増えると思いますか?

藻谷 もちろん増えます。というか11年の震災以降もう増えていましたし、今後も増えるでしょう。

 ですが問題は、地方から上京する若者の数がどうなるか。ここ5年ほどでしょうか、東京の人手不足と大学競争率の低下で上京する若者はどんどん増え、東京から地方に移住する人を打ち消してしまいました。なにぶん彼らも、彼らに上京を勧めたその親も、震災時の東京の混乱や計画停電などを経験していません。でも、東京に出れば勝ち食いだとでも思ってこの4月に地方から進学・就職した若者は、今どう感じているのでしょうね。起きるといわれている関東地震や富士山の噴火などが起きてから、「なぜ、こんなに人が密集して住んでいるんだ」と気づいても遅いのですが……。

 今回のコロナ禍でも、死亡率が高いのは東京です。それも、山の手のほうが下町より死者が多い。超高層のタワーマンションや超高層のオフィスビルほど、窓を開けて換気することができませんしエレベータも3密です。超高層のほうがステータスが高いって、どういう発想だったのでしょうか。

――そうですね。

藻谷 コロナ禍の直撃を受けている飲食業にしても、東京は家賃が高いので特に苦しいのです。過疎地のカフェは家賃も安く、家庭菜園をやっていることも多く、ご近所同士で物々交換してしのいでいけます。

 感染者数も、東京と地方では段違いです。過疎地ではゼロのところが多い。都会に住んでいる人ほど、密集のリスクとコストを実感しています。だから東京から地方への移住者は増えますが、問題は今の東京を経験していない地方の子どもたちに、親が今後何を教えるか教えないかでしょう。

地方が高単価化を意識すべき理由

――では、里山資本主義の実践者はコロナ禍でもダメージは少ないと?

藻谷 大都市や海外からの集客交流が止まっている分、金銭的には厳しいですが、お金なしで回る里山資本主義的なバックアップ機能は作動しています。これは中国地方在住のある女性から訊いた話ですが、今、地元の店に行くと、おそらく都市部に出荷するはずだった良質な肉や野菜が安く出回っていて、家庭菜園も豊作で、食べる不安は何もないと。

――なるほど。市場には出回っているものの、事実上、地元コミュニティ内の物々交換に近い状況になったというか……。

藻谷 そうして持ちこたえているうちにまた、集客交流が可能な状況に戻ってきます。「これからは外に頼らず生きていこう」というのは早計です。おそらくあと1カ月くらい、遅くとも半年も経てば、国内での人的交流は復活していくでしょう。それから、台湾や中国、韓国、豪州など、感染が収束した国からの旅行者を中心に、徐々にインバウンドも復活していきます。彼らは日本の春を楽しめずに、今ものすごく欲求不満になっています。ですから地方の側では、今後はもっと高単価化を意識して、次の非常時への金銭的備えを作っておくという意識が大事です。

地方移住で失敗しない方法とは?

――これを機に地方移住を考えた都会の人にアドバイスをお願いします。

藻谷 自治体や地方の企業が主催するUターン、Iターンなどのフェアはどんどん増えていました。感染がもう少し収まれば復活するでしょう。決め打ちせず、気になった土地に複数出向いてみることです。

 ただ、移住者に金銭面でインセンティブを出す自治体には釣られないことです。目先のお金目当てで結婚してはいけないのと同じです。気候も重要です。自分は暑い/寒いのどちらを我慢できるか。湿っている/乾いているののどちらを我慢できるか。実はそれぞれに違うので、夏と冬にそれぞれ行ってみたほうがいいですね。

 それから地方に行くと、「この土地に骨を埋める覚悟はあるのか」と訊いてくる人もいますが、そんな覚悟はいりません。東京も、上京者に骨をうずめる覚悟なんか問いません。ですが、少なくとも数年間はコミットできるか、できれば一生住んでもいいか、これまた結婚と同じで、自分として愛情が沸くか、相性はいいかを探る必要があります。

――今、都市部に住む人、里山に住む人それぞれに一言ずつお願いします。

藻谷 都会に住むリスクを主にお話ししてきましたが、都会に住むベネフィット(利益)ってなんなのかも、きちんと考えておくべきです。遊びにいくだけではダメで、住まなければ享受できないものって、都会に本当にあるのでしょうか。都会に住んで地方に遊びにいくのと、地方に住んで都会に遊びにいくのと、どちらが有利で、どちらが楽しい人生を送れるか。私は今の時代には圧倒的に後者だと思いますが、いかがでしょう。家賃の差を考えれば、移動にお金をかけられるのはむしろ地方住民です。都会に住む人にも田舎に住む人にも、親の世代の偏見は忘れて、現実を見てほしいものです。

藻谷浩介(もたに・こうすけ)

㈱日本総合研究所主席研究員。1964年、山口県生まれ。平成合併前3,200市町村のすべて、海外114ヶ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。地域振興、人口成熟問題、観光振興などに関し、精力的に研究・著作・講演を行っている。著書に『デフレの正体』(角川oneテーマ21)、『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(共著/角川oneテーマ21)、『観光立国の正体』(共著/新潮新書)、『世界まちかど地政学 NEXT』(文藝春秋)など多数。Japan Times Satoyama推進コンソーシアムのアドバイザーを務める。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2020/05/07 21:00
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