ベッドイン、乱闘、なりすまし、障害者……おバカでお下劣なだけじゃない! 海外発恋愛リアリティ番組の狂騒
#Netflix #バチェラー
――『テラスハウス』が根強い人気を誇り、最近は『バチェラー・ジャパン』がファンを増やしている日本。一方、海外から配信される恋愛リアリティ番組は、それらがヌルく感じるほどぶっ飛んでいる! 乱痴気騒ぎの過激なコンテンツから先鋭的なコンセプトのものまで、その“エクストリーム”な世界をのぞいてみよう。
2017年からAmazonプライム・ビデオで配信中の『バチェラー・ジャパン』。今年9月からはシーズン3が配信スタートし、話題となっている。カネも地位もあるイケメン独身男性=バチェラーをめぐり、25人の女性たちが戦いを繰り広げる婚活リアリティ番組であり、シーズン1に参加した読者モデルのゆきぽよこと木村有希はこの番組で知名度を高めた。
もともと『バチェラー』は02年に始まったアメリカの大人気番組で、19年までにシーズン23が放送。アメリカ版のファンで、自身も日本版シーズン2に出演した海外エンタメ・ライターのLindsay(リンジー)氏は、その魅力をこう語る。
「ヘリコプターでデートをしたり花火を打ち上げたり、お金のかけ方がすごい。さらに、本国版は日本版と比べて女性の口が悪く、ケンカがドロドロ。みんな自信満々だから、フラれても納得できない表情が見てわかるところも面白いです」
あからさまな色仕掛け、悪口、嫉妬して大号泣……そこまで感情をむきだしにしてバトルを繰り広げるのは、アメリカ版ならでは。さらに、本国版には日本版にはない仰天ルールも存在する。映画・番組企画制作プロデューサーの糸井美喜氏は、こう話す。
「表向きは番組終了までバチェラーは参加者とベッドインしてはいけないことになっていますが、過去に女性が抜け駆けしてカメラの見えないところでベッドインしてしまったケースも。最近では、候補者が3人に絞られた段階で、それぞれ合意の上で女性と2人きりで一夜を過ごすことができる“ファンタジー・スイート”というルールが設けられ、公認で体の相性を試す機会が与えられています」
実際、濃厚なキス・シーンは当たり前。盛り上がって全裸で海に入り抱き合ったこともある。そんな過激な場面がありながらもアメリカ版は国民的人気番組となっており、シーズン22ではバチェラーがパートナーの座を勝ち取ったひとりの参加者にプロポーズした後、すぐ2番手に乗り換え、批判が殺到。ある番組ファンが街中の看板広告を買い占めて「今すぐ消えろ」とバチェラーに怒りのメッセージを送ったり、フラれた女性の地元・ミネソタ州の議員がバチェラーを同州に出入り禁止する法律を作ろうと動いたというトンデモ報道が出たりすることさえあった。
いつも水着姿の男女がビーチで乱痴気騒ぎ
こうした『バチェラー』本国版以外にも、日本の『テラスハウス』や『あいのり』などとは比べものにならないほど“エクストリーム”な海外発の恋愛リアリティ番組が数多く配信されている。その中でも特に“過激”な番組に焦点を当てていきたいが、まず挙げるべきは『“ex-エックス”オン・ザ・ビーチ~戦慄のバカンス』【1】だ。“EX”は元カレ、元カノを意味するように、恋人が欲しい8人の男女がウェイウェイとビーチで夏を過ごすのだが、そこにそれぞれの元恋人たちが突如登場。復縁を迫ったり、スマホをチェックしたり、過去の浮気を暴露したり、ビーチは一気に地獄絵図と化す。
「もともとイギリス発の番組ですが、アメリカ版も制作されています。後者はグループ内の投票によって元恋人が追放されるというルールがある。だから、参加者が自己紹介もなくケンカしたり、いろんな人と寝たりする前者に比べて見た目は過激ではありませんが、元恋人が追い出されないように立ち回るなど頭脳戦の要素が加わり、人を陥れたりして人間関係はドロドロしています」(糸井氏)
「参加メンバーは、超女たらしやケンカっ早い女性など“ヤバい人”が多いですね。女同士の口ゲンカでドリンクをかけ合ったり、ケンカが殴り合いに発展してスタッフが止めに行ったりすることも。はっきり映してはいませんがベッドシーンもあり、元カノと寝てしまう人もいます。参加者はほとんどいつも水着姿で、国民性なのか『豊胸しました』と平気で言う女性も。日本ではあり得ない言動が盛りだくさんです」(Lindsay氏)
この番組に負けず劣らず過激なのが、『アー・ユー・ザ・ワン?~奇跡の出会いは100万ドル!』【2】。“恋愛がうまくいかない”男女計20人が南の島で10週間、ひとつ屋根の下で過ごす。ただ、事前に彼らのパーソナリティや家族、友人などの調査から10組マッチングされているが、本人たちは誰が運命の相手かわからない。番組終了までに全員の組み合わせが成功したら、賞金100万ドル(約1億円)を山分けできるのだ。毎週1回、カップル1組のみ自分たちがパーフェクト・マッチかを確かめられ、マッチしたカップルは島を出られるが、マッチしなければまた戻って相手を探すことになる。
「好きな相手が、実は運命の相手ではないと判明したときが面白い。お金のために別の相手を探さなければならず、お金が絡んだ愛が見える。リアルな人間ドラマですよね。企画力、資金力に驚かされます」(Lindsay氏)
「参加者は“恋愛がうまくいかない”といっても日本のように非モテではなく、一夜限りを繰り返す人や、浮気性の男しか捕まえられない人など、基本的に恋愛に積極的。だから、マッチングよりも、まず『あのイケメン/美女とヤレた』と自慢したりする。ただ、当初は過激でしたが、シーズンを追うごとにSNSの評判などを気にしているのか、おとなしくなった印象があります」(糸井氏)
もう一作、過激をウリにしているのが『ジャージー・ショア~マカロニ野郎のニュージャージー・ライフ~』【3】。男女8人が米ニュージャージー州の一軒家で共同生活をするが、毎晩パーティで酔いつぶれてはケンカしたり、セックスしたり。参加者は強烈なキャラを持つ人ばかりで、下品さもおバカさもエクストリームな日常が繰り広げられる。同番組のスピンオフとして、イギリスでも『ジョーディ・ショア~ワイルド・ジョーディのニューカッスル・ライフ~』が11年に始まり、19年にはシーズン19が放送された。海外リアリティ番組を中心としたブログ「さんのめ.com」を運営する主婦いしだ氏も、この番組にハマったひとり。
「『あいのり』や『テラスハウス』が好きで、たまたま『ジョーディ・ショア』をAbemaTVで観てみたら別世界。みんな常に酔っ払っているような状態で、自己主張が強く、『あの人と寝たい』と思えば周りを気にせず寝る。信じられないようなシーンばかりでハマりました。参加者のクロエは、シーズンを追うごとこに奇麗になって、インスタグラムもチェックしています」(いしだ氏)
「お騒がせな人ばかりですが、中でもスヌーキーという女性が超人気となり、その親友Jワウと2人でスピンオフ『スヌーキー&Jワウ』も制作されました。日本の恋愛リアリティ番組だと、まだ特定の参加者が爆発的人気となってスピンオフが作られるまでではないですよね。いかにアメリカでリアリティ番組が支持されているかがわかります」(Lindsay氏)
『バチェラー』の裏側を暴露したドラマとは?
どの番組もセックスしたい、金が欲しい、目立ちたいなど、欲望むきだし。よくこんなにキャラが濃い人たちをそろえられるなと驚くほどだ。
「番組によりますが、ギャラがものすごくいいといわれています。聞いたところでは、『ジャージー・ショア』の最終シーズンで1話あたりのギャラは1000万円まで上昇した人物もいたとか。しかも、番組で人気が出れば、インフルエンサーとしてSNSでのビジネスにつなげることもできる。日本の場合、マーケットが小さいせいもありますが、リアリティ番組で有名になってもせいぜいタレント止まり。アメリカは若い子を中心に絶大な人気を集め、コスメなどの商品をプロデュースして大もうけしたり、歌手になったり、セレブと付き合うほどネームバリューが上がる人も。そうした一獲千金を狙って参加する人もいるようです」(Lindsay氏)
では、参加者が人気を得たいがためにキャラを作ったり、番組側がヤラセを行ったりすることはあるのだろうか?
「参加者が注目されたいがための言動をすることはないわけではありませんし、制作側も演出として本命や悪役などキャラ付けして面白くなるように“仕向ける”ところはあると思います。『バチェラー』の元プロデューサーが番組の裏側を暴露した短編映画を元ネタとするドラマ『UnREAL』も制作されました」(糸井氏)
虚も実も織り交ぜた上での面白さ。多少の“演出”があっても、叩かれることを恐れず、とことんおバカに徹してさらけ出すことは、なかなかできることではない。「あいつはクレイジーだ」「最高だ」とネットで評価し合うことを含めて、番組の魅力につながっているのだ。
「日本のリアリティ番組の参加者自身は、叩かれたくないのか本音を言ってないような感じ。でも、アメリカやイギリスのリアリティ番組は、自分の秘めているものをさらけ出しています」(いしだ氏)
「アメリカは人口が多く、人種もさまざまで、考え方もそれぞれ違うため、叩かれて炎上することがあっても、同じくらい『面白い』と支持する人もいる。日本では炎上すると叩く人ばかりになるので、『おとなしくしよう』と思ってしまうのでしょう。日常にはない刺激を求めてリアリティ番組を観る人が多く、出演者はクレイジーな言動が注目されてスター扱いされるようになっていくので、より過激な番組が作られているのだと思います」(糸井氏)
アメリカの暗部を映し出す――ネット恋愛の“なりすまし”
とはいえ、おバカで下品なものばかりではなく、また違った意味で“エクストリーム”な番組もある。その筆頭が『キャットフィッシュ~リアルレポート ネット恋愛の落とし穴~』【5】だ。SNSや出会い系サイトで恋人を探すことはアメリカでは珍しくない。だが、ネット上のプロフィールは本当なのか、そもそも実在しているのか。その正体を探るという新基軸の恋愛リアリティ番組である。
ホスト役を務める俳優ニーヴ・シュルマンは、自身がネットで親しくなった美女に会いに行ったところ、思いがけない真実を知るという体験をした。その経緯はドキュメンタリー映画『キャットフィッシュ』(10年)で描かれたが、やがてニーヴのもとに全米各地からネット恋愛の相手を調べてほしいという依頼が殺到し、番組化へと至ったのだ。
なお、キャットフィッシュとはナマズのこと。タラを輸送する際、ナマズを1匹入れておくとタラが元気でいられるという。つまり、“なりすまし”は人々を元気にするための必要悪だということか――。ウェブサイト「海外ドラマNAVI」編集部の中村亜希奈氏は、この番組の面白さについてこう語る。
「単になりすましを暴くだけでなく、同性愛者やトランスジェンダーであることをカミングアウトできず、性別を偽ってしまった人や、田舎の貧困層で極端に出会いが少なく、都市部の人にお金を求めたという人なども出てきます。つまり、アメリカ社会の暗部やゆがみを浮き彫りにするエピソードも多いですね」
中村氏はそのほかに興味深い恋愛リアリティ番組として、障害を抱える人が出会い相談所に登録し、自分を受け入れてくれる相手を探す『恋人を探して! デートでいつも悩むこと』【6】や、フェイスブック内の動画配信サービス「Facebook Watch」のオリジナル・コンテンツ『Help Us Get Married』【7】を挙げる。
「『恋人を探して!』には、身体障害のほかダウン症や自閉症といったさまざまな方が登場するのですが、両親も出てきて応援したり、相談所のスペシャリストがどういう子がいいかアドバイスして、一緒にデートの会話の練習をしたりと、心温まる番組。一方、『Help Us Get Married』は、3組のカップルが結婚式のドレスやケーキ選びなどをライブ配信し、視聴者が投票して決めるというもの。内容は過激ではありませんが、結婚式を投票に任せるというのは日本人にはない発想ですし、リアルタイムでの視聴者参加型というのも新しい。パーティ三昧の恋愛リアリティ番組だけでなく、こうした新しいテーマや趣向を取り入れた番組が増えています」(中村氏)
中村氏によれば実際、6人の独身男女がそれぞれ5人とデートし、2回目のデートの相手をひとりだけ選ぶ『5ファースト・デート』【8】、カップルがポーズを決めて写真を撮り、どちらがセクシーか勝負し、負けたほうのルックスを“大改造”する『セクシーなのはどっち?』といったものも存在するそうである。
ここまで取り上げた番組のように、海外の恋愛リアリティ番組にはさまざまな形があるわけだが、意外にも最近アメリカでは日本の『テラスハウス』が人気だという。あの淡さが逆に新鮮に映るのだろう。乱痴気騒ぎの恋愛リアリティ番組は依然高い人気を保ってはいるが、違うものを求める向きも一部ではあるようだ。
(取材・文/安楽由紀子)
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