小さなエゴと大きな欺瞞が融合し、惨劇は起きた原発事故の真相を究明した『チェルノブイリ』
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裁判で明かされる、原発事故を招いた張本人
最終話「真実」で繰り広げられる裁判シーンが、本作のクライマックスだ。共産党中央委員会と最高会議幹部会による裁判が開かれ、なぜ原発事故は起きたのか、その責任者は誰なのかが明かされる。事故直後は作業員の操作ミスとして大々的に報道されていたが、証言台に立ったレガソフ博士が世界を震撼させた大事故の真相を白日の下にさらす。
事故当日、チェルノブイリ原発4号機では安全性を確かめる実験が行われていた。原子炉が安定しておらず、実験は失敗に終わるが、現場責任者であるディアトロフ副技師長(ポール・リッター)は自身のキャリアに傷がつくことを嫌い、実験を強引に続行しようとする。制御室にいた作業員たちは、上司であるディアトロフに誰も逆らうことができなかった。
大惨事が起きた原因は、現場のトラブルだけではない。ソ連原発の主流となっていたRBMK原子炉には構造的な欠陥があったにもかかわらず、関係者は誰もそのことを指摘できずにいた。国家プロジェクトに文句を付けることは、ソ連上層部の決定に逆らうのと同然だからだ。ここでもまた、事故現場とソ連上層部でも、同じ問題をはらんでいたことが分かる。社会主義国家であるソ連では社会システムが明確化されており、上の人間が決めたことに下の人間は反対することが許されない。チェルノブイリ原発でのディアトロフ副技術長の技術長に昇格したいというちっぽけな出世欲が、国家レベルの大きな欺瞞と呼応したとき、人類はかつて体験したことのなかった大惨事を呼び寄せてしまった。
ちっぽけなエゴと大きな欺瞞とが結びつき、チェルノブイリは核爆発を起こした。そして事故発生から5年後、ソ連もまた崩壊することになる。レガソフ博士とボリス副議長が暴いたもの、それは巨大国家の腐敗しきった社会構造だった。
『チェルノブイリ CHERNOBYL』
脚本/クレイグ・メイジン 監督/ヨハン・レンク
出演/ジャレッド・ハリス、ステラン・スカルスガルド、エミリー・ワトソン
DVDレンタル中(全3巻)発売・販売元/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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