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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 百田尚樹の“変節”読み解く

コロナ対応でモタつく“友人”安倍総理をディスる! 著作から読み解く百田尚樹の“変節”

ニコニコ動画「百田尚樹チャンネル」より

 『永遠の0』(講談社文庫/単行本は太田出版、2006年)などで知られる小説家であり、中国人・韓国人に対するレイシズム丸出しの発言で物議を醸してきた百田尚樹。ベッタリだと思われてきた安倍政権に対し、新型コロナウイルスの対応をめぐって反旗を翻したような発言を繰り返している。

 百田尚樹は変節したのか? それとも、一貫した振る舞いなのか?

 百田尚樹の著作をすべて読んで論評する『百田尚樹をぜんぶ読む』(文芸評論家の杉田俊介氏との対談本、集英社新書)を4月17日に刊行したばかりの日本映画大学准教授の藤田直哉氏に、百田思想とコロナ騒動との関係について訊いた。

杉田俊介・藤田直哉著『百田尚樹をぜんぶ読む』(集英社新書)

 脅威に恐ろしく早く気づくタイプ

――藤田さんは百田尚樹の小説やエッセイ、対談本をひと通り読んだそうですが、その観点から見て、コロナ対応に対する彼の安倍政権批判をどうとらえていますか?

藤田 ある部分では変節だと感じますが、ある部分では変節ではないと感じています。百田尚樹を単なる「安倍政権の提灯持ち」だと思っていた人たちにとっては、変節だと感じられると思います。しかし、ぼくの評価はちょっと違います。『百田尚樹をぜんぶ読む』という本の中で、ぼくは百田尚樹という人をある種の「ギフテッド」ではないかと示唆しています」

――ギフテッド?

藤田 平均とは異なる振る舞いをしているので誤解されがちだが、特殊な能力を持った人ということです。どういう能力かというと、先を読む能力が異様に高い、特に、「脅威」の感知に特別に長けた人だと思います。人間社会や生活の内側に自足しているのではなく、外側にある脅威の、ほんのかすかな兆候に恐ろしく早く気づいてしまうタイプの人のように思います」

――どういうところからそう感じたのでしょうか?

藤田 自伝的な作品と呼ばれる『錨を上げよ』(幻冬舎文庫/単行本は講談社、10年)の内容や、百田作品が好んで描く主人公像にそれを感じます。作品に描かれた人物と作者を素朴に一致させて考えるのは、文学研究的にはあまりよくないのですけれど、それを踏まえた上でも、ぼくにはそう感じられます」

――なるほど。

藤田 そして『影法師』(講談社文庫/10年)をはじめ、小説作品の中でも常に「庶民」「大衆」「民」を食わせる、生かすことを重視した内容を書いていました。だから、「アベノミクス」を成功させている安倍政権を応援していて、理想主義的・観念主義的なリベラルを貶す、という論理になっていたのだと思います」

――実体経済がどうだったかはともかく、現官邸は「緩やかに景気回復を続けている」と言い続けてきましたからね。

藤田 『ぜんぶ読む』の中でも、「そんなにストレートに信じていいのか」「騙されているのではないか」みたいな議論はしています。それはともかく、以上の2点からすると、いち早く新型コロナウイルスの危険性を警告し、政府への批判を行った百田尚樹は、ぼくからすると、筋が通っているように見えるし、そうしてくれてよかったと思います。ぼくの中での株は上がりました。少なくとも、書いたものとの一貫性はある。そう感じます。

 例えば百田尚樹は、2月21日にツイッターでこのような提案をしているんです。まだ、それほどの大ごとだとは多くの人が考えていない頃です。ちなみに、ぼくもこの時点で、これはスペイン風邪や第二次世界大戦に匹敵する大きな危機になりかねないと判断し、政府への批判を開始していました。その「危機」への判断において、ぼくは自分が百田尚樹と一致したことに驚きました。

 非常事態宣言が発令された今、これは「実行したほうがよかった」と思う人が多いのではないでしょうか。

――罰金以外は今やほぼ実現しています。

藤田 しかし、当時はまだ世論はそうなっていなかったし、政府もそういう対応をしていなかった。危機に早く気づき、非難を覚悟で警告と提言をした、その百田尚樹の判断力の正しさは、驚くものがあります。ただ、普段の中韓への差別的な言動のせいで、これもその延長線で言っているんだろうと思えてしまった。これ自体が差別心の発露ではないかと、確かにぼく自身も思いました。そのことには一考の余地があります。

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