『精神0』想田和弘監督インタビュー、妻でプロデューサーの柏木規与子氏も登場「想田のこと恨んでました」仰天発言の真意とは?
#映画 #インタビュー #想田和弘
妻は映画作りのパートナー
ーー想田監督自身も、奥様の柏木規与子さんが、よく撮影に同行されて、映画のプロデューサーも務めています。
想田 映画を作る上で彼女の存在は大きいですね。柏木がいなかったら映画はできてないです。そもそも『精神』も『精神0』も、その他のいくつかの作品も、彼女の実家がある岡山県が舞台ですし。
ーー柏木さんとはどこで知合われたんですか?
想田 ニューヨークから日本に帰る飛行機です。柏木はもともとダンサーで、僕も映画を学ぶ学生だったので、アーティスト同士ということで仲良くなりました。日常生活ではたいていのことで意見が食い違い喧嘩になるのですが、芸術に関する考え方はなぜかとても似ています。編集のときに意見を聞いたり、撮影を手伝ってもらっているうちに、柏木も僕の映画作りに深く関わっていくようになったんです。
ーー想田監督の映画作りの影には内助の功の奥様が。
想田 内助じゃないですよ。僕らはもっと対等なパートナーで、僕も彼女がダンスの公演をするときは手伝うし、お互いに助け合うという感じですね。最近は映画の舞台あいさつにも一緒に出るようにしていますし、本当はこういうインタビューも彼女も一緒に受けたほうがいいと思うんですけどね。いまもそこにいるんですけど。
ーーじゃあぜひ柏木さんにも出ていただいて。奥様からご主人におっしゃりたいことは?
柏木 初めまして柏木です。まず彼は私のご主人ではないです(笑)。
ーー失礼しました。パートナーですね。想田監督が映画を作るうえで、柏木さんの力は大きいと思うのですが。
柏木 そうですねぇ。私の感覚としては、ずっと一緒に作ってきたという気持ちはあるのですが、表に出す時は、想田和弘監督観察映画、とひとりにまとめるほうがやりやすいというか、私は見えないところでやっていくようにしていたつもりだったのですが、最近は私も少し前に出るようになっています。
ーー本当は共同監督みたいな感じなんですか?
柏木 そんなことはないです。基本的には全部想田がやっているんですけど、私は撮影現場で皆さんの緊張感がなくなるようにもっていくとか、必要なときに許可を取ったりとか、想田の手の届かないところをやっています。あとは編集のときに一緒に見て、ここ面白いとか、ここはいらないよね、とかやってます。
ーーけんかしたりは?
柏木 編集のときはそれほどないですけど、撮影のときは結構あって、想田は撮るのに一生懸命になって現場に踏み込みすぎるときがあるので、そういうときに私がそれはやりすぎだと口を出すと、うるさいとか言われたりしますね。
ーー山本先生ご夫妻の関係と比べると、あちらのご夫婦は奥様が影になっているというか夫を支えているのに対し、自分たちは対等だと感じますか?
柏木 私に言わせると、山本先生ご夫妻のご関係はむちゃくちゃ自分たちに重なるんですよ。
想田 (笑)。
柏木 もともと私もやりたいことがあってニューヨークに来たのに、想田に巻き込まれて彼の活動を手伝うようになって、自分が活動する時間もエネルギーも取られちゃって、当初は本当にイヤだったんですよ。でもある時、いま撮らないと、想田はダメになると思う時があって、100%の力で彼に協力したんです。それで観察映画の1作目の『選挙』と、2作目の『精神』を一緒に作ったんですが、一生懸命やりすぎて調子を崩しちゃって、想田のことを恨むようになって、『精神』の撮影中に山本先生の診察を受けたんです。そうしたら「やりたくないことは全部やめなさい」と言われて、「想田の手伝いをやめたいです」って言ったら、「それがええじゃろう」って(笑)。
それで一切の手伝いをやめたら、彼はひとりでは何もできない人だと思ってたのに、逆にうまく出来上がって、あ、できるようになるまで私が育てたんだ、なんて(笑)。すみません、偉そうで。それからは私の自分の気が進むところだけ手伝うようになりました。でも想田のことは基本的に認めています。やはり彼だから色んなことをそれなりに成し遂げてこれたんではと思うんです。あと、私は想田に映画のことでもなんでもかなりボコボコに、辛辣なことを言うんですが、よく耐えてくれてるなと。ほかの人ならへこたれるんじゃないかなあ。
ーーなるほど。最後に想田監督に、いま世界がこういう状態だからこそ、この映画を見て感じてほしいポイントを教えてください。
想田 生きることというのはそもそも大変なことなんですけど、山本先生と芳子さんがしてきた仕事というのは、精神の病という大変さの極致のなかにある人たちと一緒に生きることだったんですよね。真っ暗な現実の中で、いや、こんなところに光があるぞと、そのガイドをするような仕事をしてきたおふたりだったんですが、いまそのふたりがご高齢になり、かつて自分たちが助けてきた患者さんたちのような困難な状況に置かれている。それにもかかわらず、今おふたりの生活にはすごく穏やかな、平和で心安らぐ時間がある。それはいま、ウイルスにより誰もが死の恐怖にさらされ相互不信に陥りがちな大変な時代にあって、すごく重要な示唆を与えるものなのではないかと、僕は思っています。
柏木 山本先生は映画の中で共生ということをよくおっしゃるのですが、まさに共生の時代がこなければと、そんなふうに思うヒントが映画のなかにあるような気がします。
ーーどうもありがとうございました。
想田和弘(そうだ・かずひろ)
1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒。93年からニューヨーク在住。映画作家。台本やナレーション、 BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。監督作品に『選挙』 (07)、『精神』(08)、『牡蠣工場』(15)、『港町』(18)、『ザ・ビッグハウス』等。国際映画祭などでの受賞多数。著書に『精神病とモザイク』 (中央法規出版)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など。
柏木規与子(かしわぎ・きよこ)
岡山県岡山市生まれ。93年からニューヨーク在住。ダンサー・振付家。太極拳師範。想田の観察映画のプロデューサーを務める。
5月2日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて他全国順次公開
現在の状況に鑑み、劇場公開と平行して(仮設の映画館)にてデジタル配信を行なう。
【「仮設の映画館」概要】
▶WEB サイト URL: www.temporary-cinema.jp/seishin0
▶鑑賞料金:一律 1800 円
▶鑑賞料金の分配:プラットフォームの使用料(約 10%)を差引後、一般的な興行収入と同様に、劇場と配給とで 5:5 で分配。さらに配給会社と製作者とで分配します。なお上映を予定していた劇場が事情により休映、休館した場合も「仮設の映画館」では続映し、その収益の分配の対象となります。
▶鑑賞期限(予定):レンタル購入から 24 時間以内/ストリーミングのみ、ダウンロード不可】
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