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日刊サイゾー トップ > 社会 > 政治・経済  > 緊急事態宣言がゆるいワケとは?

「緊急事態宣言」がゆるいのは憲法せいじゃない! 安倍政権の改憲案の問題点とは?

ドイツ・フランスでは権力の暴走に抵抗できる

 では、なぜ日本では諸外国のように罰則規定を設けずに、自粛要請にとどめているのだろうか? 堀氏は、自粛が日本の人々に対して効果を発揮するからではないか、と考えている。

「自発的な協力による“自粛”の場合、線引きが曖昧になったり、対応がばらばらになって不公平が生じるというデメリットはありますが、自粛要請であれば行政が臨機応変に対応できるというメリットもある。

 また、法律で罰則を定めて強制すると、何が許されない行為なのか明確になって予測可能性が生まれる反面、法律の運用が硬直的になってしまって使い勝手が悪くなってしまう面もあります。

 平常時でも、各省庁が各種政策の実施のために、良くも悪くも強制力はない形で民間人や企業に“協力要請”などを呼びかけている例がたくさんあるように、決してすべての政策を法律による強制だけでカバーしているわけではないんです。

 また、諸外国との対応の差には、戦争などの非常事態に対する意識の差も関係していると思います。G7諸国では、ドイツとフランスの憲法に緊急事態が規定されていますが、ドイツの場合には冷戦時代に東西に分断されていたため、国土防衛に対する意識が強く、ドイツ連邦共和国基本法(憲法)には『防衛出動事態』という名前で、緊急事態に関する規定が盛り込まれている。

 また、フランスには『非常事態権力』が規定されています。ドイツやフランスなどは、陸続きで戦争の経験がある一方、日本は島国という地理的要因もあり、緊急事態に対する意識が強くなりにくかったのでしょう」(堀氏)

 しかし、緊急事態を明記する両国とも、その取り扱いは慎重である。ドイツでは、内閣が単独で緊急事態を確定することはできず、連邦議会または合同委員会が議決しなければならない。また、その解除についても、内閣の意思に関係なく連邦議会が決定できることが定められている。フランスでは、大統領が首相などに諮問した後に非常事態権力を行使できるが、30日以上継続する場合には国民議会議長などが憲法院に訴えて、その根拠の判断を求めることができる。

 さらに、ドイツでは、緊急事態を悪用するなどして、民主的な憲法秩序を権力者が破壊した場合に、国民が抵抗する「抵抗権」が定められており、フランスでも「圧政への抵抗」を保全すべき自然権として人権宣言の中で規定しているなど、権力の暴走に対する抵抗の規定も憲法に存在しているのだ。

自民党改憲草案には歯止めがない!

 では、そんなドイツ・フランスの緊急事態と比較して、自民党が憲法に盛り込みたい「緊急事態条項」はどうだろうか?

 堀氏は、18年に自民党憲法改正推進本部が発表した憲法改正のための『たたき台素案』には、諸外国のような厳密な規定や歯止めが十分ではないと指摘する。

「この素案では、緊急事態においては『大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律制定を待てないときには、内閣は法律の定めるところにより、国民の生命・身体および財産を守るため政令を制定することができる』とされています。

 これは、法律と同じ効力を持つ政令を内閣が直接作り、やろうと思えば内閣の一存で罰則を作ったり、国民の自由や権利を制限できることを意味するものです。

 本来、国民の権利や義務を定めるルールは国会が定める法律でなければならないはずなのに、この素案では三権分立を否定し、内閣に行政権だけでなく実質的に立法権も与えてしまうことになってしまいます。

 また、そもそも誰が緊急事態かどうかを判断するかも問題です。

 ドイツでは議会が判断する規定になっていますが、この素案では、内閣が判断すると規定されている。つまり、内閣が自分で自分に巨大な権限を与えることになってしまうんです。

 そして、これらに対する歯止めも不明瞭。

 緊急事態については『国会の承認を得なければならない』と書かれていますが、この承認をいつまでに得るか、得られなかった場合にどうなるかが明らかではないし、緊急事態中、例外的に国会議員の任期を延長して選挙を先送りする規定にも、いつまで先送りできるのかを明記していない。

 極論すれば、国民の参政権を奪ったまま、議員の地位を永久に継続させることも可能になってしまいます」(堀氏)

 このように、ドイツ・フランスの憲法と比較すると、権力の規定に関して欠陥が多く目につく自民党によるたたき台素案。しかし、緊急事態に備えるのであれば、改憲ではなく法律の制定でも十分にまかなうことは可能だ。

「今回のような感染症や大規模な自然災害など、緊急時の対応が必要になる局面は今後も発生するでしょう。しかし、その時に必要なのは、憲法を変えて三権分立をないがしろにしたり、内閣に巨大な権限を与えることではない。現在の憲法を歯止めとしたうえで、緊急事態を想定した法律を整備し、国民の生命や財産を守るためどうしてもやむを得ない場合に、国民の自由や権利への必要最小限の制限を行うかといった部分をしっかり議論して決めることではないでしょうか」(堀氏)

 いまだかつて誰も経験したことのない「緊急事態」に直面している日本社会。これを機会に「憲法とは何か?」「緊急事態とは何か?」を考えることで、コロナ後に待っているであろう改憲論議の見え方も変わってくるだろう。

堀新

1963年生まれ。1987年、東京大学教養学部教養学科第三(相関社会科学)卒業。1987年、株式会社東芝入社、主に人事・労務部門で勤務。2001年~2003年、社団法人日本経済調査協議会に出向。2006年、司法試験に合格、2007年、最高裁判所司法研修所にて司法修習。2008年、弁護士登録。「明日の自由を守る若手弁護士の会」会員。著書に『13歳からの天皇制』(かもがわ出版)。

 

 

萩原雄太(演出家・劇作家・ライター)

演出家・劇作家・フリーライター。演劇カンパニー「かもめマシーン」主宰。舞台芸術を中心に、アート、カルチャー系の記事を執筆。

Twitter:@hgwryt

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はぎわらゆうた

最終更新:2020/04/15 12:12
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