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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 団地発ラップのGREEN KIDS

GREEN KIDSが紡ぐ移民の歌 差別、暴力、貧困…日系ブラジル人が集住する団地発のラップ

“ガイジン”も受け止めるラップ・ミュージック

古びた棟の前で仲良さそうに話していた姉弟。

 GREEN KIDSと話していて感じるのは、日系4世というアイデンティティの複雑さだ。例えば、彼らは“ガイジン”という言葉をよく使う。

「オレらが言う“ガイジン”は、ブラジル人学校に行って、卒業した後もブラジル人だけでつるんで、ポルトガル語しかしゃべらないような奴らですね。それと比べると、オレらは中身は日本人なんですよ」

 Flight-Aは言う。しかし、日本社会ではGREEN KIDSも“ガイジン”扱いされる。Swag-Aが続ける。

「昨日、車をトラックにぶつけちゃって。軽くですけど、慌てて車を降りたら、相手の運転手が明らかにビビってる。ガイジンで、タトゥーだらけの奴が現れたもんで。オレ、そういうときはあえてめちゃくちゃ丁寧に接するんですよ。そのギャップは狙っちゃいますね」

 また、普段、日本語とポルトガル語を使い分けるFlight-AとSwag-Aは、歌詞を書く際は前者がメインだ。

「やっぱり、日本で活動している以上、日本語のラップで売れたいですね。あと、さっきの話にもつながりますけど、見た目はガイジンで、ラップは日本語っていうギャップがオレらの武器になっていると思う」

 もしくはそこには、日本政府がいくら“移民”の存在を認めないとしても、実際に移民はいるし、彼らの中から新たな“日本人”が生まれつつあるという現実が表れている。そして、ヒップホップ/ラップ・ミュージックという文化こそは、そのような複雑なアイデンティティを受け止める器として機能するのだ。16年に底を打った在日ブラジル人人口は、再び増加している。移民社会化する日本は、必然的にラップ大国になっていくだろう。

「ヒップホップでメシを食えるようになるのが理想だな」

 Flight-Aは遠い目をして言う。彼は、毎日、朝6時半から工場で働いている。クラブでライヴをして、寝ないで仕事に行くこともざらだという。しかし、その理想はそこまで離れた場所にあるわけでもない。GREEN KIDSとして注目を集めるだけでなく、ソロとしてもオーディション番組『ラップスタア誕生!』(AbemaTV)のファイナル・ステージへ進出した(取材時)。近い将来、東新町団地はスターを輩出した聖地になっているかもしれない。

 現在、GREEN KIDSのメンバーで団地に住んでいるのはACHAだけである。Flight-AとSwag-Aも扶養家族ではなくなり、家賃が上がったため引っ越してしまった。

「やっぱり、寂しいですよね」

 ACHAは部屋の窓から、ふざけあっている仲間たちを見下ろしてつぶやく。

「ずっとみんな一緒だと思ってたんですけど、GREEN “KIDS”と言いつつ、もう大人なので」

 そう笑う彼も、車のローンを払い終えたら、ひとり暮らしの部屋を探すという。

「でも、オレたちがどこから来たか忘れることはないです」

 ブラジル人である前に、ペルー人である前に、日本人である前に、彼らは団地っ子なのだ。(月刊サイゾー2019年2月号より/写真=細倉真弓)

 

 

磯部涼(作家)

1978年生まれ。音楽ライター。主にマイナー音楽やそれらと社会とのかかわりについて執筆。17年末に出版した『ルポ 川崎』(小社刊)がベストセラーになった。

Twitter:@isoberyo

いそべりょう

最終更新:2020/04/13 08:53
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