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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 『ワンダーウォール』が劇場版に
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.578

日本最古の学生寮はどうすれば存続させられる? 壁を乗り越えたい『ワンダーウォール 劇場版』

今の時代、団体交渉は意味がない?

学生課に作られた白い壁。学生たちは窓口のスタッフに自分たちの意見を伝えるが、責任者はいつまでたっても現れなかった。

 本作はNHK BSプレミアム『ワンダーウォール 京都発地域ドラマ』として、2018年にオンエアされた60分の単発ドラマをベースにしている。NHK朝ドラを人気枠へと復権させた『カーネーション』の渡辺あやオリジナル脚本作ということで、キャストオーディションには成海璃子も含めて1,500人が参加。オーディションで選ばれた若手俳優たちが織り成す群像劇となっている。

 尾野真千子がタフなヒロインを演じた『カーネーション』の他にも、池脇千鶴が主演したせつない恋愛映画『ジョゼと虎と魚たち』(03)、同性愛者たちが暮らす老人ホームを舞台にした『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、大震災を経験した少年少女たちのその後を描いた『その街のこども 劇場版』(11)など、渡辺あやがシナリオを書いた物語は、時間を経ても色褪せることがない。時代の波にどうしようなく流されながらも、懸命に自分らしく生きようとする人たちの姿を、渡辺あやは描いてきた。人気脚本家になってからも島根で暮らし続ける彼女の作品には、都会で暮らす他の脚本家とは異なる独自の視線が感じられる。

 本作のなかで重要な語り部となるのが、主演から助演まで多くの映画やドラマに出演している岡山天音が演じる大学4回生の志村だ。のほほんとしている志村は、学生課へ抗議に向かった際も、女性スタッフ・香の胸の膨らみに目を奪われていたように思えたが、彼は彼なりにいろいろと考えているらしい。

 大学側の責任者を話し合いの場に呼び出して、論破できれば、それが学生側の勝利であり、学生寮の存続につながるとキューピーたちは考えていた。だが、志村は違うじゃないかと呟く。今までどおりに闘っても、意味はないんじゃないかと。なぜなら、学生たちと話し合うつもりが、大学側にはまったくないからだ。

 ベルリンの壁が壊れて東西ドイツが統一したように、寮生たちは学生課にできた壁を突き崩すことに熱くなっていた。でも、学生課の窓口に立つ女性スタッフをいくら責めても、それは無駄な行為だった。大学側は鼻から学生たちと同じ土俵に上がるつもりはない。窓口でいくら声高に叫んでも、それは自己満足にしか過ぎなかった。では、どうすれば学生寮を守ることができるのか。キューピーたちが闘うべき相手は誰なのか。その答えは容易には見つからない。

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