韓国で猛威を振るうフェミニズム、文在寅政権で新たに「男女対立」が加わり激しい選挙戦に
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世界中が新型コロナウイルス禍で深刻な状況にあえぐ中、韓国では4月15日に国会の全300議席を入れ替える総選挙が行われる。今回の選挙は任期後半に入った文在寅政権の中間評価が問われており、さっそく激しい選挙戦が繰り広げられている。
選挙戦における論点の一つが、フェミニズム問題だ。韓国社会における女性の非条理を取り上げたチョ・ナムジュ著の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ヒットしたことからもわかる通り、韓国でのフェミニズムへの関心は高い。その意識は政治にも反映されており、2000年には女性の地位向上などを目的として、日本の省に相当する「女性家族部」が設置されたほどだ。
日本で暮らす韓国人の元記者は、韓国のフェミニズム問題について、こう語る。
「ここ数年のフェミニズム運動でシンボリックに取り上げられるのが、2016年に起こった『江南通り魔事件』です。事の発端は、15年のフェミニズム関連ウェブサイト『メガリア』発足にさかのぼります。男性が女性の胸の大きさを揶揄することに対抗して、男性の性器の大きさを嘲笑するような話題が飛び交うメガリアは、保守的傾向の強い政治コミュニティの一つである電子掲示板サイト『イルベ(日刊ベストストア)』にたむろするネチズン(ネット市民)から、『ミサンドリー(男性嫌悪)サイトだ』と批判されていました。
そのような中、16年5月17日、韓国有数の繁華街に位置する江南駅近くのトイレで、35歳の男が22歳の女性を10数回にわたりメッタ刺しする事件が起こりました。犯人は、商店街にある男女共用の公衆トイレで女性が入ってくるまで身を潜め、見ず知らずの被害者が入ってきたところを襲ったのです。そして、男は犯行動機として、『数日前に女性に吸い殻を投げつけられた』など、女性に見下されて憤慨したと話したことから、“ミソジニー(女性嫌悪)による犯行”として大きな注目を集めました」
日本でもフェミニズムという言葉は市民権を得ており、古くは平塚らいてうや市川房枝、土井たか子、最近では福島瑞穂や上野千鶴子、田嶋陽子、蓮舫、辻元清美と多くの政治家や活動家が、その信念を胸に声を上げている。
家父長制を否定する彼女らは、天皇を頂点とする伝統的国家制度を支持する保守層男性の対岸に位置しており、言論やインターネット上ではさまざまな議論や対立はあるものの、日本ではミソジニーやミサンドリーを理由とする殺人事件は起きてない。
では、韓国で女性に対するヘイトクライムが発生する原因は何なのか?
「韓国でフェミニズムが台頭し、ミソジニー殺人まで起きてしまった背景には、儒教文化での“女性蔑視”と徴兵制での“女性優遇”のパラドックスがあります。父系の血縁関係を重視する儒教文化では、社会的に男女の序列と役割が固定されていました。しかし、近年では女性の地位向上によって男性の地位が相対的に低下したにもかかわらず、韓国男性には食事代の支払いなどのエスコートや、女性をリードする力強さが求められ続けています。
そして、韓国男性の最大の不満が徴兵での女性優遇です。以前は兵役の恩恵として、公務員採用試験などで有利に働く『軍務加算点』を受けられましたが、フェミニストによる女性差別との声を受けて1999年に廃止されました。国民の義務が男性のみに課せられ、20代前半の貴重な時期を無駄にしなければならないことに納得がいかないのです。
韓国男性は総じて、女は権利ばかりを主張し、男は義務を押し付けられると感じています。上述の江南通り魔事件は、韓国男性に鬱積したミソジニーが表出した瞬間であると捉える人もいます」(前出の韓国人元記者)
フェミニズム政党「女性の党」の誤算
通り魔事件の直後から、犯行現場となった江南駅10番出口で追悼行事が連日行われた。被害女性が「メガリア」を利用していたかは定かではないが、事件を受けた韓国女性の間では、「私はフェミニストである」という集団的なアイデンティティが生まれ、彼女らは自らを「メガル」「メガリアン」と呼ぶようになった。この呼称は「メガリア」が閉鎖した現在でも使われている。
「当時、大統領選挙を見据えて下野していた文在寅氏は追悼行事を訪れ、多くの参加者とともに付箋にメッセージを書き込んで追悼掲示板に貼り付けました。文氏による『どうか次の人生では一緒に男として生まれましょう』というメッセージは、メガリアンの心を動かし、翌年の大統領選挙では多くのメガリアンが文候補に投票しました。いわば、メガリアンは文大統領誕生の立役者でもあるのです。
日本のフェミニストの方々には、『男に生まれればよかった』という言葉のどこに心動かされたのか理解できないと思います。しかし、当時の韓国フェミニストの間では、『女だから殺されるのであれば、男として生まれたほうがよい』という考えが広まっていました。文氏のメッセージは、そんな彼女らの心に寄り添うものだったのです」(同)
そしてメガリアンを中心とするフェミニストは、今年3月8日の「国際女性デー」に合わせてフェミニズム政党「女性の党」を出帆させた。同党は「女性に関する議題」のみを掲げ続けることを目標としているが、実質的には親文在寅政党と見られている。
だが、4月から解禁される選挙戦で文陣営の追い風となると目された女性の党は、出帆からわずか数日で座礁した。
「女性の党は3月10日、公式ツイッターを通じて『総選挙のための48億ウォン“ギブミー”プロジェクト』と称して、韓国の著名な女性実業家に向けたバナー広告を発信しました。
例えば、映画『パラサイト』の配給会社である財閥・CJグループの副会長で、アカデミー賞授賞式でマイクを握った李美卿氏に対しては、『李美卿副会長! 次は女性監督が行う時です。1億ウォンだけいただきます。韓国の女性の未来に投資してください』などとバナー広告で呼びかけました。
しかし、このSNSを活用した資金集めについて、聯合ニュースなどが政治資金法違反の疑いがあると報じたため、女性の党は広告を出した翌日、謝罪文をツイッターに掲載。広告の表現が不適切だったことを認めた上で、資金不足の実態を釈明しました」(同)
女性の党が出した謝罪文では、党員の80%が10代・20代の女性であるため、彼女らには毎月1万ウォン(約900円)の寄付も負担が大きい状況であると記されている。だが、女性の党に若い女性が集まったという事実は、性接待を強要された芸能人の相次ぐ自殺や史上最悪のデジタル犯罪「n番部屋事件」を放置する韓国社会への怒りが爆発したことの証左だろう。
伝統的な地域対立と保革対立に加えて、新たに男女対立が加わった韓国は、いったいどこを目指して進んでいくのだろうか。
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