「病院船」の建造調査開始、調査費7000万円+建造費500億円は適切なのか
#新型肺炎 #コロナウイルス
政府が「病院船」の建造に乗り出そうとしている。4月3日の産経新聞が「『病院船』建造へ、補正予算案に調査費7千万」という記事を掲載した。何故いま、病院船の建造なのか?
産経新聞によると、「政府は病院船の建造に向け、2020年度補正予算案に調査費7000万円を盛り込む方向で調整に入った。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、与野党から導入を求める声が強まり、本格検討に入る」という。
また、病院船導入には超党派による「病院船・災害時多目的支援船建造推進議員連盟」が3月11日に要望書を武田良太防災担当相に提出し、厚生労働、防衛、国土交通各省と内閣府が中心となって検討を進めてきたという。その上で、「議員連盟は2023年春までに500床のベッドを備え、人員1000人を収容できる長距離フェリー並みの病院船2隻を竣工させたい考えで、費用は1隻250億円を見込んでいる」としている。
ここに来て、急に「病院船」建造の話が盛り上がったのには、おそらく米国海軍の病院船の活動が引き金になったのだろう。
米国では「マーシー」と「コンフォート」の2隻の病院船が新型コロナウイルス対策に投入されている。「マーシー」はロサンゼルスに、「コンフォート」はニューヨークに派遣されている。
「マーシー」と「コンフォート」は1970年代に建造されたタンカーを病院船に改造したもので、全長272.6メートル、全幅32.3メートル、満載排水量6万9360トン。その大きさを例えるなら、戦艦「大和」とほぼ同じだ。
平時は乗組員12名、海軍医療スタッフ59名の必要最小限の人員で維持されているが、災害発生時には乗組員67名、医療スタッフ1215名が乗船し、出動命令から5日以内に作戦状態に入る。船内設備は、成人患者用の病床が1000床、12の手術室、80の集中治療室、隔離病棟1棟、医学研究室、CTスキャン装置などが備わっている。
「病院船」はジュネーブ条約第22条で、「傷者、病者及び難船者に援助を与え、それらの者を治療し、並びにそれらの者を輸送することを唯一の目的として国が特別に建造し、又は設備した船舶」と定義されている。さらに、塗装は白で、視認性の高い赤十字マークを表示させるなどの外見も定められている。もちろん、軍に所属していても、自衛用の武器以外の搭載は認められておらず、事前の通告を行った病院船に対する攻撃や拿捕も禁じられている。
日本は第二次大戦以前には数多くの病院船を保有・運用してきたが、戦後は病院船を保有していない。95年の発生した阪神・淡路大震災で、国内災害に対応するための多目的船舶(災 害時多目的船)の必要性についても議論が高まった。その後、政府は97年度から「多目的船舶基本構想調査委員会」を設置し、検討を開始した。防衛庁では98年に新型の「おおすみ」型輸送艦が、海上保安庁では97年、98年に災害対応型の大型巡視船「いず」「みうら」が就航した。
しかし、11年の東日本大震災で災害対応における海からのアプローチが見直され、11年4月には病院船建造を求める「病院船建造推進超党派議員連盟」が発足、12年5月には内閣府特命担当大臣(防災担当)に病院船の建造推進に関する要請書を提出した。
政府も12年4年1月に防災分野や医療分野の専門家からなる「災害時多目的船に関する検討会」が内閣府に設置され、大規模・広域災害への対応手段のひとつとして「災害時多目的船」について検討が行われ、その後も災害時多目的船、特に病院船についての検討が行われている。
しかし何故、このタイミングで「病院船」の建造を検討する必要があるのだろうか? もちろん、「病院船」の有用性を否定するつもりはないが、すぐに建造できるものでもなく、予算が決まったわけでもなく、調査費の7000万円を予算に計上するために議員連盟が動いているというのだ。この緊急事態に直面している状況で“調査”とは、危機感が足りないというか、スピード感がないというか。
その上、議員連盟の要請では病院船の竣工は23年春で費用は500億円を見込んでいる。3年先の病院船の竣工に対して、議員活動を行うよりもいま、やるべき課題は山積しているのではないか。
調査費7000万円+建造費500億円という予算を使うにしても、医療関係者に対して防護服やマスクの不足が発生しないような手当てや、PCR検査の拡大、感染患者の隔離施設の増設等々、予算の使い道には事欠かないはずだ。
新型コロナウイルスの感染拡大という危機的状況の中で、国会議員の職責として何か求められており、何をなすべきなのかを十分に考えて議員活動を行うべきだろう。
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