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自由よりも監視社会のほうが安全!? 人と技術の関係が変わるアフターコロナの世界

イメージ画像/出典:LukeMa

 新型コロナウィルスを封じ込めるため、世界各地で最新テクノロジーが広く使われはじめている。特にここ数年、国を挙げてテクノロジーへの注力を公言してきた中国は、医療・小売・流通・教育・行政など多くの分野で自動化および非接触技術を実戦導入。フル稼働させている。

 「ウィルスの“震源地”とされている武漢に限らず、中国では非接触で感染リスクを低減するという理由から、医療支援、接客、無人配達などを行うロボット、また無人レストランや無人店舗の活用が注目されています。ドローンを使った物流も活発化。航空物流SF Expressなどはかねてからドローン物流を研究してきましたが、病院に物資を届ける用途で本番活用を始めています」(中国在住のテック系企業経営者)

 中国では、人工知能(AI)も大活躍だ。例えば、かねてから張り巡らされている監視カメラ網に加え、顔認識AI、検温システム、個人ID、交通機関の利用履歴などを組み合わせ、感染リスクを抱えた人々の移動経路をリアルタイムで把握。マップ化して一般向けに公開している。また昨今増加しがちなフェイクニュースの判断に、AIが活用される事例もでてきた。さらには、スマートフォンを利用した「AI裁判」も増加。これは、AIアシスタントなどのテクノロジーを簡易裁判に活用するというものだ。

 また3月11日までに、中国全国30省市、合計1万3629の裁判所が非接触のためネット生中継による審理を選択したが、その法定業務を「AI裁判官」が補佐しているという情報もある。

 一方、米国を中心とした欧米勢も、ウィルス解析や創薬などにAIを活用しようとしている。最近では、ウィルスに関する研究時間を短縮するため、IBM、グーグル、アマゾンなど大手IT企業がスーパーコンピューターの演算パワーを集結・提供するというニュースも世の中を騒がせた。

コロナきっかけで監視社会強化へ?

 新型コロナウィルスという人類共通の脅威を前に、社会への浸透が進む先端テクノロジー。ただそれは、人間にとって必ずしも、手放しで喜べることではないかもしれない。というのも、コロナ禍が終結するまでの間、また“アフターコロナ”の世界では、「テクノロジーと人間の在り方が大きく変容していくかもしれない」という専門家たちの指摘も浮上し始めているからだ。

 なかでも興味深いのが「予測テクノロジー」「管理・監視テクノロジー」が発展を遂げるという視座がある。一体、どういうことだろうか?

 「ウィルスの存在で人々が街を出歩けなくなるなんて、2019年の段階では誰ひとり想像すらできなかった。また収束のメドが立たないコロナ禍は、予測不可能な明日に対する社会不安を一気に膨張させています。個人にしろ、企業にしろ、国にしろ、その漠然とした不安を取り除くため、デジタルやAIの力により依存していくかもしれません。つまり、あらゆるデータをデジタル空間に“献上”してシミュレーションを行なうことで、最も効率的でリスクのない答えを得ようと試みるはず。その帰結として、人々はいくばくかの自由や権利をシステムに差し出す必要に迫られるかもしれません」(技術コンサルタントA氏)

 国によって違いはあるものの、これまで日本を含む多くの欧米諸国では、社会の効率性とプライバシーが天秤にかけられ、個人に対する過度なデータ収集は「人権や自由を損ねる」としてネガティブに捉えられる向きが強かった。だが、コロナ禍はそれらの感覚を変化させ、「少々、自由が制限されようともリスクをなくしたい」という人々の欲望を解き放とうとしている。「都市を政府の権限で封鎖して生活を保護しろ!」というようなSNSに氾濫する書き込みはその欲望の一端だ。その欲望の果てに現れるのが、デジタル空間であらゆることを疑似体験できる新しい予測テクノロジーである。

 一方、日本の有名研究者のひとりB氏は、「社会がパニックになると人間はどうなってしまうのか。コロナ禍はそれをまざまざと見せつけた」と指摘。今後のテクノロジーの行く末を暗示する。

 「買い占めや感染者に対する差別、また利害の衝突など、人間は困難の前でも理性的であるという幻想を打ち砕いてしまった。また既存のテクノロジー革命がもたらした情報の氾濫は、それを処理できない多くの人にとってもはや害悪さえいえる状態です。これまで欧米諸国が批判してきた中国の監視・統制テクノロジーが、むしろ功を奏してしまっている感もある。民主主主義や人権を求める人々にとっては、非常に皮肉な結果がまっているかもしれません」(B氏)

 B氏はコロナ禍を契機に、人間の性悪説にも基づいた監視テクノロジーが強化されるかもしれないと予測する。それは、生まれから現在の行動やパーソナリティまで、個々人のあらゆるデータをベースに統制・管理を行うテクノロジーだ。ある意味、A氏の予測とも通じる部分がある。

 「とはいえ、新たに出現する管理・監視テクノロジーは、暴力性や強制力を感じさせないものになるかもしれない。中国のそれとも違う。イメージとしては、社会の階層によって各個人に必要かつ最適な情報を与え行動を誘引する、もしくは“幸せ”や“満足”で洗脳することで、社会全体の秩序を維持するテクノロジーです。映画『マトリックス』を例に出すと大袈裟かもしれませんが、その手の世界観のテクノロジーが出現するというのは大いにあり得ることです」(同)

 コロナ禍を制圧するのにテクノロジーは強力な武器だ。しかし、テクノロジーの発展が世界的な人の移動を可能にし、また情報を錯綜させているせいで「コロナ禍が起こった」という点は決して見逃してはならない。そして、コロナ禍が露わにする人間の本性は、次の新たなテクノロジーの培養液となるはずだ。人間とテクノロジーはどのような共生関係を築いていくのか――今、大きな岐路にあることは意識しておきたい。

河 鐘基(ジャーナリスト)

リサーチャー&記者として、中国やアジア各国の大学教育・就職事情などをメディアで発信。中国有名大学と日本の大学間の新しい留学制度の設置などに業務として取り組む。「ロボティア」「BeautyTech.jp」「Forbes JAPAN」など、多数のメディアで執筆中。著書に「ドローンの衝撃 」(扶桑社新書) 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」 (扶桑社新書)、共著に「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」 (光文社新書)など。

Twitter:@Roboteer_Tokyo

はじょんぎ

最終更新:2020/04/06 12:12
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