無垢な少女が弱毒ワクチン化する変貌のドラマ! 世界を敵に回しても歌い続ける『ポップスター』
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モンスターが生まれる要因は資質か環境か?
ラテン語で「光の声」という意味の原題となる本作を脚本から手掛けたのは、1988年生まれの新鋭監督ブラディ・コーベット。ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲームU.S.A.』(07)で胸クソ悪いイケメン、洗脳の怖さを描いた『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(11)ではカルト集団のメンバーを演じるなど、個性派俳優として活動してきた。
監督デビュー作『シークレット・オブ・モンスター』(15)は、世界大戦を招く独裁者の少年時代をフォーカスしたものだった。生まれついての資質、人格形成期の家庭環境と対人関係、社会情勢が組み合わさり、恐ろしいモンスターが生まれる過程を描いてみせた。イノセントな存在が、複合的な要因からモンスター化していくというテーマ性は、本作と共通するものとなっている。
セレステの場合、悲しい事件で亡くなったクラスメイトたちを鎮魂するため、そして自分自身も立ち直るために無心で曲づくりに励んだ。やがてステージでうまく歌いたい、いいアルバムを作りたいという想いが強くなり、欲望の大きさと共にアーティストとしても急成長を遂げていくことになる。ポップスターとして成功を収めたセレステは、もはや無垢なる個ではいられない。姉のエレノアやマネージャー、音楽関係者たちを巻き込んだ巨大なビジネスへと変貌する。その一方、セレステ個人の発言や行動も、世間の注目を集めるようになっていく。
物語のクライマックスとなるのは、ナタリー演じるセレステがステージ上で歌い踊るパフォーマンスシーンだ。セレステが歌う楽曲は、人気アーティストであるSiaが提供したもの。以前から曲づくりや歌唱力が高く評価されていたSiaだが、2014年に発表したアルバム『1000フォームズ・オブ・フィアー』から顔をウィッグで隠すようになり、かえってカリスマ性が増大し、アルコール依存者の焦燥感を歌った「シャンデリア」などの大ヒット曲を放った。
Siaは顔を隠すようになった理由を、「インターネットで自分のルックスを評価されるのがイヤ。ポップスターのためにたくさんのポップソングを作ってきたから、彼らの多くと友達だけど、彼らの人生を見ていると自分はああはなりたくないと思う」と語っている。覆面シンガーになったことで、人気が爆発したSia。SNS社会が生んだ、トリックスターだと言えるだろう。恋人の死やうつ病を体験したSiaのイメージも、セレステには投影されている。
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