『恋はつづくよどこまでも』で彷彿とさせた過去の名作ドラマーー“ベタ”と“アップデート”の両立を叶えたTBSラブコメの現在地
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ヒットの秘密③「ベタ」を重ねつつも「時代の空気」に寄り添うディテール
「印象としては一見ゆるい作りに見えるけど、ちゃんと作り手が細部をコントロールできている作品だと思いました。ヒロインの七瀬も看護師になった動機こそ不純で、そのことは常に劇中で厳しく言及されるのですが、一方で彼女には、患者をちゃんと見ていて何か問題があるといち早く気づくという才能があって、ただのドジっ子ではないわけです。しかもそのことにいち早く気づくのが、一見辛辣な魔王こと天堂先生というバランス感覚の良さがあった。
天堂先生のドSキャラも仕事に対するストイックさの現われで、理不尽に怒りをぶつけたり、プレッシャーを与えることはしない。むしろ七瀬を背後から見守っていてちゃんと相手を見ていることが後からどんどんわかってくる。それに彼はドSキャラだけど、七瀬が嫌がるようなことを強引にしたりはしないですよね。まず彼女の気持ちが先にあって、それがちゃんとわかってから次の行動に移るという流れになっている。こういう態度はパワハラ、セクハラにならないようにすごく気が使われてるなぁと思います。先生と看護師の年の差カップルだからこそ、実は作り手が結構、気を使ったのかもしれないですね」
「ジェンダーギャップ」についての議論が盛んになっている昨今の「時代の空気」をうまく読み、従来のラブコメの「ベタ」を重ねながらも、価値観のアップデートに成功しているのが『恋つづ』が支持された理由といえそうだ。
「昔のラブコメにあったような誤解やすれ違いみたいな無理やりトラブルを作るという展開も少ないですね。恋のライバルが登場しても七瀬も天堂もあまり揺るがない。恋敵となるはずの若林みおり(蓮佛美沙子)も、そこまで意地悪をして追い詰めるという感じでもないですし。
これは恋愛ドラマとしてみると弱いようにも見えますが、これがむしろ今の気分なのかなと思います。今は、恋愛模様にドキドキするよりも安心感が求められている側面もあるのかもしれません」
では、『恋つづ』が起こした「ベタ」と「アップデート」の化学反応は、今後のドラマ界にどんな影響を及ぼすのだろうか? 成馬氏は、TBSの恋愛ドラマの今後についてこう締めくくる。
「本作が放送されたTBSの火ドラは『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』のような先鋭的な作品が有名ですが、基本的な基調は昔の月9を少し緩くしたようなラブコメで、深田恭子主演の『ダメな私に恋してください』や『初めて恋をした日に読む話』の路線か、『あなたのことはそれほど』のようなドロドロ路線ですが、そういった作品と比べても『恋つづ』は練られているなと思いました。過去作の影響も大きいですが、今後の火ドラの方向性にも影響を与えるのではないかと思います」
『恋つづ』の成功例が、今後のラブコメ・恋愛ドラマにどんな影響を与えていくのか。テレビドラマファンを夢中にさせる新たな作品が生まれてくることを期待したい。
成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
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