キム・ギドク監督、最後の韓国映画となるのか!? 藤井美菜、オダギリジョー出演作『人間の時間』
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新作を発表する度に、その過激な内容が賛否を呼ぶキム・ギドク監督。福島第一原発事故に衝撃を受けて撮った『STOP』(15)は日本では配給会社が現れず、自主配給となった。『The NET 網に囚われた男』(16)は北朝鮮で暮らす漁師を主人公に、社会システムが個人を押し潰してしまう恐怖を描いた。作品を重ねるごとに丸くなるどころか、ますます尖った作風となっている。韓国映画界の孤高の存在であるキム・ギドク監督が、韓国と日本のオールスターキャストで撮り上げた問題作が『人間の時間』(英題『Human,Space,Time and Human』)だ。
エディプス王の逸話を思わせる、 ひと筋縄ではない親子関係を題材にした『メビウス』(13)など、これまでもギドク作品は、宗教色、ファンタジー性を感じさせたが、『人間の時間』はもはや「ギドク神話」と呼ぶべき世界となっている。舞台となるのはクルーズ船。戦争に使われた古い軍艦が改装され、客船となっている。有名な政治家(イ・ソンジェ)とその息子アダム(チャン・グンソク)、政治家に取り入ろうとするヤクザ(リュ・スンボム)、日本からの参加者であるイヴ(藤井美菜)とイヴの恋人(オダギリジョー)、そして謎めいた老人(アン・ソンギ)ら、さまざまな乗客たちで賑わっている。
韓国のリアリティーショーに出演し、韓国で絶大な人気を誇る藤井美菜。ギドク監督の『悲夢』(08)に出演したオダギリジョー。2人ともギドク作品ゆえに、無事では済まされない。藤井演じるイヴは、ヤクザによって個室に拉致され、政治家たちにレイプされてしまう。オダギリ扮するイヴの恋人は怒り狂うが、ヤクザらによって返り討ちに遭ってしまう。船上は、もはや治外法権状態だった。いや、それどころか乗客たちが気づくと、クルーズ船は異空間に迷い込み、宙に浮かんでいるではないか。外部との連絡は遮断され、船内に残された食料は1か月分のみ。楳図かずおの恐怖漫画『漂流教室』さながらの、弱肉強食地獄が繰り広げられる。
本作のヒロインである藤井美菜の役名は「イヴ」、政治家の息子役を演じるチャン・グンソクの役名は「アダム」となっている。アダムとイヴは、食糧をめぐる殺し合いが平然と行われる船内で物語後半までサバイバルする。旧約聖書の中のアダムとイヴは知恵の実を食べるまでは「エデンの園」で平穏に暮らしていたが、ギドク神話の中のアダムとイヴはもっと血なまぐさい。人間らしく生きたいと願う理性と、恥も外聞もかなぐり捨てて生き延びようとする本能とがせめぎ合う。そんな中、謎めいた老人は船の中の土を集めて、拾い集めた野菜のタネを植えて育てようとする。飢餓が蔓延する船内で、野菜が実るまでアダムとイヴは待っていられるのだろうか。
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