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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 『人間の時間』が描く暴力と神話
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.575

キム・ギドク監督、最後の韓国映画となるのか!? 藤井美菜、オダギリジョー出演作『人間の時間』

ギドク監督が語る、真逆だった両親の存在

キム・ギドク監督と親交の深いオダギリジョーも出演。毅然とした態度で、正義を貫こうとするが……。

 現在は韓国を離れ、モスクワで活動しているキム・ギドク監督がスカイプでのインタビューに応じた。ギドク監督からの最新コメントを紹介しよう。

ギドク「この映画は、私が生まれて今までに感じてきたこと、考えてきたことの全部を詰め込んだ作品です。私が描きたかったのは、人間も自然の一部なんだということです。どうしても私たちは人間を善と悪に分けたがります。でも、天候にいい日もあれば悪い日もあるように、人間も自然の一部だとすれば、良い人間・悪い人間に分けることができるだろうかという思いで、今回のシナリオを書いています。私が出演してほしいと思っていた人たちに、シナリオを送りました。アン・ソンギさんやチャン・グンソクさんは、シナリオを送ってすぐに出演を快諾してもらえました。オダギリジョーさんもそうです。藤井美菜さんには日本でお会いする機会があり、すでにシナリオが完成していたので後日お送りしたところ、OKをいただきました。食糧をめぐって生々しく争いが起きる内容なので、嫌悪感を抱くのではないかと心配していたのですが、『やりたい』とみなさんに言ってもらえてよかった。シナリオに込めた私の意図を、きちんと理解していただけたんです」

 ギドク作品には『嘆きのピエタ』(12)や『メビウス』など濃厚な親子関係が描かれることが多い。『人間の時間』でも、理性ある人間であろうと努めるアダムは支配欲の塊である父親と激しく葛藤することになる。ギドク監督自身はどのような家庭環境で育ったのだろうか?

ギドク「私の母はとても美しく、優しい存在でした。父は母とはまったく逆でした。父は朝鮮戦争に従軍し、全身に銃弾を浴びた傷跡が残り、心にも傷を負っていました。それもあって、晩年の父は薬を飲み続け、とても怒りっぽくなっていました。そんな父の影響を受け、子どもの頃の私は他人と目を合わせることができず、いつも俯いて過ごしていたんです。私が自分自身のことを信じられるようになったのは、映画をつくるようになってからです。映画をつくることで、この世界にはいろんな生き方があり、さまざまな考え方があることも理解できるようになったんです」

 ギドク監督のこの言葉を聞いて、うなずくギドクマニアも少なくないはずだ。優しい母親と暴力的だった父親。そんな真逆な両親から生まれたギドク監督のつくる作品もまた、底知れぬ暴力性とすべてを救済しようとする至高の愛とが交錯する。その集大成的な作品が、『人間の時間』なのだと。

 これまで以上に振り切った強烈なバイオレンスシーンが盛り込まれているが、これもギドク監督によると「人間は自然界の一部。虎がウサギを捕まえて食べるように、当たり前のものとして描いたつもりです。残酷描写を見せようと意図したものではありません」とのことだ。

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