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『ねほりんぱほりん』レビュー

『ねほりんぱほりん』東日本大震災から9年……「家族が行方不明の人」のリアルな言葉

仏壇に線香は上げられない

「一緒に暮らすお姑さんは完全に亡くなったものだと向き合ってたので、毎朝仏壇にお線香をあげて手を合わせるんです。だけど、私はそれがどうしてもできなくて。“冷たい嫁だなあ”なんて思っているかもしれないですけど、ちょっとそれは勘弁してくださいって(苦笑)」(カズコさん)

 実家に帰るでもなく、嫁ぎ先のお姑さんと同居を続けるカズコさん。亡くなったのではなく、夫は行方不明になっただけと信じているからではないのか?

 お姑さんの気持ちもわかる。もちろん、我が子には生きていてほしい。でも、行方不明の息子を待ち続けるつらさもある。お姑さんはそれに耐えられなかったのかもしれない。割り切らないと心が持たない。だから、死んだことにして線香を毎日あげた。

 お姑さんも、葬儀をあげるよう促した親戚の中にも、アキコさんの父を聖人君子のように美化した人たちの中にも、誰一人として悪人はいない。だから、かえって切なくなる。みんな互いを思い合っているのに、人の気持ちに寄り添うのは本当に難しいことだ。

 カズコさんの子どもたちは「父親はもう帰ってこない」と思っているようだ。

「子どもたちも忘れなきゃいけないことだったり、覚えてなきゃいけないことだったり、整理しながら成長してるから。お母さんのそういうのは、もしかしたら“ママ大丈夫?”ってなっちゃうかもしれない」(YOU)

「そっか。“引きずってるな……”ってなっちゃうかも」(山里)

 家族間にも心持ちのすれ違いはある。家族で悲しみを分かち合うことさえ難しいという現実。

 カズコさんは、家族以外の人たちとも夫の話はしづらいと感じている。

「震災のテレビ番組では、新しく何かを始めたり、前を向いて一歩踏み出している方のお話が多く取り上げられていて。そういう流れの中で、いまだに受け止められずに“待ってます”っていう自分の気持ちは、周りにはすごく言いづらいです」(カズコさん)

 震災から立ち直り、被災者は前を向いて歩きだした。この種の報道は、多くの者の励みになるだろう。しかし、それができる人のみが素晴らしいわけじゃない。カズコさんの話を聞き、それに初めて気づいた。生き方にはそれぞれ速さがあるし、全員が前を向いて歩くのは難しい。

「“前を見ていこうよ”なんて耳触りが良く聴こえるけど、そこが別にたどり着かなきゃいけないところではないかもしれませんしね」(山里)

「それぞれの思い方があるよね」(YOU)

 ゆっくりでもいいし、別にたどり着かなくたっていい。答えはひとつではないのだ。

 帰り際にカズコさんはこう言った。

「いつ帰ってきてもいいように、とりあえず今は自分の生活を頑張って」

 父の行方不明を受け入れ、母とのズレに悩んでいた1人目のゲストのアキコさん。行方不明の夫の帰りを待ち続けているカズコさん。2人の待ち方は対照的だ。そして、アキコさんの母とカズコさんの思いは同じ形に見えた。思い方は人それぞれということを、双方の角度からフェアに見せてくれた今回だったと思う。

「顔出しだったら話せないです。ブタさんになったので正直な気持ちを言えて、スッキリした気持ちになっています」(カズコさん)

 ブタの姿で心情を吐露するというシステムは、この日のためにあった? と思うほど、意義を感じた回だった。こんな切り口で震災が語られたのは珍しいし、この切り口は絶対必要だと思う。第4シーズンのラストにふさわしい、とてもいい最終回だった。

 

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2020/03/18 14:00
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