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『ねほりんぱほりん』レビュー

『ねほりんぱほりん』東日本大震災から9年……「家族が行方不明の人」のリアルな言葉

母娘なのに、分かり合えない

 大切な人を失ったときの受け取り方は、人それぞれ違う。父と恋に落ち、一生を共にすると誓い合った母。生まれたときから父が当たり前のように傍にいた娘――。父との関係性が違う2人は、捉え方も違ってくる。たとえ家族でも悲しみ方は異なる。母娘なのに、2人はわかり合えなかった。

 母とのズレを感じたアキコさんは、気持ちを理解しようと、母の日記をこっそり読んでみた。

「文面が父親に語りかけるというか、生きてる人に宛てた手紙みたいな。“あなたならアキコになんて声をかけますか?”という一文があって。母親の中で父親という人はまだ生きている。生きてるのを信じてるんじゃなくて、父親が母親の中に確立されてる雰囲気があって。それからは、“絶対に父の話は避けなければならない”って……」(アキコさん)

 はた目からは「被災者として同じ体験をした人がたくさんいる」と思いがちだが、実際は人の数だけ捉え方がある。あくまで、おのおのの体験なのだ。他人にはわからない気持ちを全員が抱えている。

 アキコさんは今も、父に関する話題を母との間では避けているという。

「今、母の父に対する認識は“行方不明”という状態。これで生活はうまく回っています。でも、“遺骨が見つかった”というニュースを見るたびに……。父の遺骨が見つかって“生きてる可能性は0%です”という証拠が出てきたら、今まで絶妙な状態で回っていた生活が崩れる反動はどうなるのかな? という怖さがあります」(アキコさん)

 第三者からすると、遺体が見つかれば「家族の元に戻れてよかった」とポジティブに受け取りがちだ。でも、残された遺族によっては、複雑な問題が出てくる。遺骨が見つかることで不安が生じるなんて、想像さえしなかった。

 最後に、アキコさんは語ってくれた。

「思い出してみると私、友だちのお葬式に出たときは悲しくなって泣くのに、でも自分の父親だけは悲しくならないと思って。もしかしてそれって自己防衛じゃないけど、何かせき止めてたのかなって。そうなると、9年間のツケみたいなものをいつか払うことになるんじゃないかなという怖さがあります。あの日、本来受け止めるべきだった感情を受け止めなければいけないときが何かのきっかけで来るのか、一生来ないで終わるのか。そういうのがあるのかなあ? って」

 絶望を前に悲しみを感じなくなる、それは自分の心を守るために起こり得る状態。決して、ツケになるものじゃないと信じたい。今回、この9年で、アキコさんは初めて自分の気持ちを口にできたそうだ。

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