高輪ゲートウェイ駅のAI女性駅員は「年齢」「住所」「好きなタイプ」まで答える。このジェンダーバイアスこそ「クールジャパン」
2020年3月14日に開業したJR山手線・京浜東北線の「高輪ゲートウェイ」駅。「未来をイメージできる駅」をコンセプトに掲げた同駅だが、周辺案内のために設置された「AI駅員」が波紋を呼んでいる。
駅看板が「明朝体」であることも物議を醸した高輪ゲートウェイ駅
高輪ゲートウェイ駅に設置されたデジタルサイネージは、AIを搭載したキャラクターが音声認識で利用者に質問に答え、駅周辺の道や乗り換えの案内をしてくれる。AIには2種類あるのだが、男性駅員はリアルなアバターで、女性駅員はアニメキャラクターのような可愛らしいイラストだ。
16日付けの東洋経済オンライン記事によれば、男女の「AI駅員」の違いは顕著で、男性駅員については<駅構内や周辺の案内は的確だが、いたってまじめな印象>。女性駅員は、<会話の最中に髪の毛を触る仕草をするなど、かなり凝った作りだ。このキャラには「渋谷さくら」という名前が付けられており、年齢、住所、職業なども質問すると答えてくれる。会話に夢中になって後ろに行列ができたりしないかと心配になるほどのレベルだ。日・英・中・韓の4カ国語に対応しているので、外国人もクールジャパンの底力を目の当たりにするに違いない>とのことだった。
▼参照:AI女子駅員が大活躍「高輪ゲートウェイ」の衝撃(東洋経済オンライン)
この記事はSNSで拡散し、「ジェンダーバイアスを強めかねない」「時代遅れだ」などの指摘が相次いでいる。下記はTwitterのコメントの一例だ。
<公的なところに並ぶとき、男性表象はおじさん(三次元)で、女性表象は若い女性(二次元)なのが日本のつらいカルチャーだなと思う……>
<相変わらず日本のジェンダーバイアスは遅れてるというか、気持ちが悪いというか>
<性差別がなくならないわけだよ>
<これが変だと思えない人はヤバイ>
そこで実際に高輪ゲートウェイ駅に行き、「AI駅員」を見て、触れて、そのジェンダーバイアスを確かめてきた。
セクハラ質問にも従順に答える女性駅員AI
開業したての高輪ゲートウェイ駅の駅舎は、解放感のある高い吹き抜けが印象的。平日朝の乗降客はまばらで、駅構内や外観をスマホで撮影する人々が多かった。同駅は2024年をめどに暫定開業中なので、まだひとつしか開かれていない改札口を抜けると、すぐ左手に「AI駅員」が駐在するデジタルサイネージを発見した。
左が「男性駅員」、右が「女性駅員」。右端は広告サイネージ
女性駅員の「澁谷さくら」さん。笑顔。
女性駅員のAIは、若い女性を模した目の大きな二次元のキャラクターで、終始にこやかな表情を浮かべていた。こちらがなにも操作しなくても、愛嬌たっぷりに微笑みかけてきたり、手を振ってきたり。恋愛シュミレーションゲームのプレイ画面のようでもある。
AIの見た目には、いわゆる“女の子らしい”要素がふんだんに盛り込まれていた。大きな瞳に、可愛らしい笑顔。彼女は時折、髪を触るようなしぐさするのだが、そのときに少しだけ目を細める表情をする。
髪を触るしぐさと多彩な表情
音声認識ボタンをタップしてAIに質問をすると、若い女性の声で、駅周辺のトイレや喫茶店の場所、さらには周辺の美味しいラーメン屋さん情報まで教えてくれた。名前を尋ねると、「私のフルネームは澁谷(しぶや)さくらです。『さくらさん』って呼んでください」と自己紹介をする。年齢は「今年で21歳」という。いや学生さんでもおかしくない年齢。若すぎる。
ともかくこんな調子で、質問にポンポンと答える。
「さくらさん」の将来の夢は「世界中の人の役に立って、みんなが楽しく過ごせる社会を築くこと」だそうで、趣味は「散歩とウインドウショッピング」。驚くことに住所まで教えてくれ、「生まれた時から今もずっと東京都世田谷区世田谷です。住みやすい街ですよ」とのことだった。好きなタイプまで答える。「明るくて、話題が豊富な方は素敵だなって思います!」と、笑顔で回答していた。
こんなふうに、プライバシーにまつわる質問を連発しても、「さくらさん」は少しも疑うような素振りを見せず、従順に答え続ける。正直、セクハラ質問をしてしまったことにふつふつと罪悪感が沸き上がってくる。セクシュアリティを含めた個人情報は、こうも気軽に聞いていいものではないし、そもそも答える設定にすべきではないのではないか。ちなみにSiriだったら、セクハラには毅然と対応する。
男性駅員のユージは、リアリティを伴った外見だ。
男性駅員も利用してみたが、こちらは真顔で、アクションも少ない。なにより、「さくらさん」とはあまりにも作画が違いすぎた。JR側はこの2つのAIを並んで設置することに、違和感はないのだろうか……。男性駅員も、周辺の道や施設の情報をハキハキとした声で教えてくれた。
名前を聞いてみると、「AI駅員のユージです」と爽やかに自己紹介。年齢を聞くと「去年の7月に生まれました。まだデビューしたての新人です」とのことで、趣味は「サーフィン」だそうだ。「さくらさん」は21歳なのに、「ユージ」さんは去年生まれた設定。違和感。
「さくらさん」と比べると、そのキャラ設定は淡泊な印象を受ける。公平を期するため、好きなタイプも聞いてしまったが、「妻子がいる」とのことだ。またしてもセクハラ質問をしてしまったことを反省する。筆者は女性だが、女性から男性へのセクハラ行為も問題だ。
「男性駅員」も「女性駅員」も、こちらが求める情報を的確に素早く答えてくれる、とても優秀なAIだった。だからこそ、なぜわざわざ「男」と「女」に分け、しかもキャラクターをここまで差別化する必要があったのか、まったくわからない。
もとを正せば2つのAIは、開発した会社が異なるという事情がある。「男性駅員」を開発したのはJR東日本情報システムで、一方の「女性駅員」はティファナ・ドットコムが提供するAI接客システム「AIさくらさん」を導入したものなのだ。
「AIさくらさん」は、渋谷109などの商業施設、ホテルのほか、一般企業のAIコンシェルジュサービスとして約300社に導入実績があるという。広く商用利用されているからこそ、キャラクター設定も緻密なのだろうか。公式ツイッターも運用されている。
JR側が「ユージ」さんと同様の「女性駅員」を開発せず、「さくらさん」を導入した経緯はわからないが、やはり違和感は拭えない。
進歩したテクノロジーで、ジェンダーバイアス丸出しの表現をしてはばからないことが、「クールジャパン」の本質なのかもしれない。
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