『ドキュメント72時間』が密着したヤンキー・インターンはブラック企業戦士の育成所?
#ブラック企業 #ヤンキー #ドキュメント72時間
2月28日放送『ドキュメント72時間』(NHK)が特集したのは、その名も「ヤンキー・インターン」。不良だったり、集団生活になじめず不登校になった者など地方出身の中卒・高卒の若者を募り、営業のスキルを実践的に学ばせ、企業が求める人材に育て上げる再教育プログラムだ。「真っ当に働きたい」と人生の逆転劇を目指す若者が集まる、いわば“ヤンキー再生工場”である。
今回、番組が掲げたサブタイトルが興味深い。「“ヤンキー・インターン” 俺たち今日からスーツ着ます」。スーツ不要の企業が増えている昨今、ここに集う若者たちは、いまだにスーツに憧れを抱いていた。
大卒でない者は人生の選択肢が少ない
ある都内のビルの一室で、一心不乱に電話営業をする参加者たち。ここは、B to Bの営業を学ぶ「テレマーケティングコース」だそう。企業から請け負った仕事を任せることで彼らに経験を積ませ、企業が欲しがる人材に育成するというプログラムである。
若者たちの経歴を聞くと、一度は工場などに就職するも退職、人生をやり直すためこのインターンに参加した者が多いようだ。
「(退職しても)また工場か、今度はサービス業しか選択肢がないんですよ。そのときにたまたまヤンキー・インターンのことを知って、入ってきました」
「“豊かな生活をしていくのは無理かも”みたいなのは思ってました。“仕事ダルい”とか“金ねえ”とかが口癖みたいな感じで。40歳になってもそれと同じことを言ってたらダサいなと思ってしまって」
「地元で高卒で就職するとなると結構悲惨なんですよ。初任給16~15万の世界じゃないですか。それは絶対イヤやなと思って。生きるためにやらんといけんなと思いました」
ほかには、きょうだいが多い家庭の経済状況を考え、大学進学を諦めた若者などもいた。この日本で、中卒や高卒の若者がホワイトカラーの職種に就くのはなかなか難しい。かつて、イギリスでは「労働者階級に生まれると、サッカー選手かミュージシャンになるしか成功の手段はない」といわれていたが、それと似た選択肢の少なさに若者たちが苦しんでいた。
ただ、その反動か、最近は大卒未満のインターンに注目が集まっていると聞く。「ヤンキー・インターン」は、ビジネスとしてすごくいいところに目をつけたという印象だ。
でも、不安がないわけじゃない。「テレマーケティングコース」での参加者たちの報酬は出来高制だ。貧困や教育格差から抜け出そうとする若者たちが労働搾取されていないだろうか? 老婆心ながら心配になってしまう。
「俺は賢い」と誇る若者を歓迎しない人材派遣会社社長
ある日の彼らの朝礼が紹介された。その光景を見て、ビクッとのけぞってしまった。
「ひと~つ! コミットりょーく!」
「全てにコミットしようー!」
「ひとーーつぅ! ちょーせんりょくーーっ!」
「最大限のチャレンジをしようー!」
全員、首筋に血管が浮き出るほど大声を出している。このような全力朝礼は今、ブラック企業の象徴として捉えられがちだ。ヤンキー・インターンはブラックな労働環境に負けない人材を育てようとしているのか? ハードな仕事内容で労働搾取されても従順でいられる“社畜”を育てる機関? 労働搾取の不安は、あながち間違いじゃない? いろいろなことが気に掛かり、ビクッとしてしまったのだ。
朝礼が終わると、ある人材紹介会社の企業説明会が開催された。説明会終了後、人材紹介会社の社長が持論を語った。
「(参加者は)すごくやる気があって、情熱があって。で、素直ですし」
「変なプライド持ってないと思うんですよ。“俺は賢い”とかそういう人は、僕はダメだと思うんですね。新しいことへの挑戦をおっくうがる感じがすごくする。あと、人の意見を聞かない」
やはり、心配だ。賢さに自信を持つ者を採用したがらない会社のトップ。そんな人が口にする「素直がいい」という言葉だけに、不安を覚えるのだ。筆者には「従順な兵隊がいないと、ブラック企業は成立しない」というニュアンスにさえ聞こえてしまった。
若者に用意される就職先は、こういう会社である。さらに、全力朝礼が義務付けられている。ヤンキー・インターンは、社畜至上主義なプログラムを組んでいるように思えてしまった。
将来に不安を抱え、集まったはずの若者たち。研修を全うする過程で、彼らは若さと希望を吸い取られないか? 老婆心だといいのだが。
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