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日刊サイゾー トップ  > 子どもはAIに負ける理論の罠
【シリーズ】「読解力低下」騒動のウソとホント(5)

「読解力低下」騒動のウソとホント(5)「教科書が読めない子どもはAIに負ける」理論の罠

読解力のない人たちがトンデモ政策を生み出す!?

 さらにややこしいのは、新井は「読書量と読解力には相関がない」と言い、OECDの02年調査では「読書の熱中度と読解力スコアには相関がある」としていることだ。

 新井は『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の中で、読書は好きか/苦手か、好きだと答えた場合にはいつごろから好きか、苦手な場合はいつごろから苦手になったか、直近の1カ月で何冊読んだか、好きな本のジャンルは文学かノンフィクションか……など、中高生にかなり細かく尋ねた。その結果、どの項目も能力値と相関が見当たらなかった――読書の好き嫌いや量と、読解力とは関係がなかった、としている。

 しかし、第4回で紹介したように02年に公表されたOECDの研究では、読書の“熱中度”とPISA型読解力には相関があるとされている(そして、これが日本の読書推進政策の根拠のひとつとなってきた)。

 だから、もし同じ“読解力”という表現に惑わされて新井的な読解力を政界や教育界が重視するならば、今後、読書推進活動は停滞するだろう。逆に、PISA型読解力と読書の関係について正しく理解する人たちがしかるべき立場にいてくれれば、今後もそれは継続することになるだろう。

 正直に言ってどちらに転ぶかはわからないが、「読解力がない人間はAIに負ける」という新井の主張は極めてキャッチーであり、そちらに引きずられる可能性は低くない。

 読書推進活動は科学的なエビデンスに基づいて行われてきたというより、世相の流行に左右されてきたという面が大きい。それは前回書いたように、朝読が“学級崩壊”対策として90年代末に注目され、2000年代には学力(読解力)向上のために採用されていったことを見ても、疑い得ない。

 PISAと新井のいう“読解力”の指すものは、それぞれどんなものなのか。新井やOECDの調査で見ている“読解力”は、それぞれ読書の“量”との相関なのか、読書の“熱中度”との相関なのか――。これらを理解すれば、難しい話ではない。

 本シリーズで見てきたように、“読解力”と教育政策/教育改革、読書推進政策、ICT教育の推進の関係もまた、ひとつひとつは難しくないのだ。

 とはいえ読解力騒動には、丁寧に経緯を追って理解しておかないと、とんでもない政策や教育現場での施策のミスを生みかねない罠がいくつもある。

 残念ながら、今後も読解力のない人たちによって無数の勘違いが生み出されていくことだろう。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2023/01/26 18:33
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