「読解力低下」騒動のウソとホント(4)教育改革から取り残される時代錯誤な“朝の読書”
#読解力
エビデンス無視でマンガを排除する上意下達モデル
朝読と時代とのズレを示す傍証は、ほかにもある。
この運動の創始者のひとりで、朝の読書推進協議会理事長である大塚笑子は、こう語る。
「『好きな本でよい』と言って漫画や参考書を読む、わざと居眠りをする。そういう態度を私は絶対に許しませんでした」(大塚笑子「読書は人生を変え、生き抜く力を与えてくれる」、「致知」18年10月号)
この発言には2つ問題がある。
まず、マンガを“読書”から排除することを正当化する学術的根拠がない。
朝読の理論的支柱となったジム・トレリースは著書の最新版である『できる子に育つ 魔法の読みきかせ』(筑摩書房、原著は2013年刊行の『The Read-Aloud Handbook』)において、PISAの読解力調査では(当時)フィンランドが1位だったが、同国の子どもは全体の59%以上が毎日マンガを読んでおり、マンガをたくさん読む子どもは大人になると本をたくさん読むようになる、と書く。
さらにトレリースは、OECDが02年に発表した32カ国の15歳の子どもの読解力と“夢中度”に関する調査の結果を紹介(OECD PISA database、01年)。読書の夢中度が高くなるほど読解力の点数は上がること、マンガや新聞、雑誌を読んでいる子どもの読解力は本(書籍)に次ぐ高さであり、楽しんで読んでいる限りは何を読んでいてもいいことを力説している。
自分たちが運動を始めるきっかけになった当の著者がエビデンスを示してマンガを推奨しているのに、朝読でマンガは排除され続けている。
事実、「『朝の読書』実施状況」での実施校に対する「読む本の対象は?」というアンケート結果を見ると、「書籍のみ」が45.9%、「書籍と雑誌も認めている」が1.5%、「書籍とマンガも認めている」が3.1%、「書籍・雑誌・マンガを認めている」が1.0%、「その他」が0.1%、「不明」が48.3%と、マンガ・雑誌排除の傾向はハッキリしている(朝の読書推進協議会調べ)。
大塚発言の問題の2つめは、時代錯誤な学習観や労働者像だ。
PISA型学力では、子どもひとりひとりが自らの個性を伸ばし、それぞれが多様な興味関心を深く掘り下げることが重要であり、そこでは当然、人々の能力も働き方も多様なものだという前提がある。
一方、読書の時間に「漫画や参考書を読む」ような人間では「就職したら、たちまち会社から解雇されてしまう」と大塚は言う。しかし、マンガを読んではダメなどというエビデンスはない。根拠のないことでも従わなければならないといった価値観は、軍隊式の上意下達モデル、教師が絶対的権威として子どもの上に立って教える・管理するという規律訓練が機能していた時代にしか通用しない。
根拠がない施策には、根拠を示しながら否を唱える人間のほうが、これからの時代にはどう考えても望ましい。
朝読は2000年代の“読解力”騒動の恩恵を受けた。だが、根幹にある価値観は80年代のままなのだ。教育研究の新しい知見を無視し、アウトプットを重視する教育改革の流れから取り残されている。
それゆえ、2010年代以降、多くの学校が新規に実施する理由を見つけられないでいる。(次回につづく)
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