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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.572

のん、6年ぶりの実写映画で見せた多彩な表現力 スターにはなれない人々の哀歓劇『星屑の町』

舞台版にはなかった、映画版での新しい台詞

ハローナイツのオリジナル曲「MISS YOU」をデュエットする真吾(大平サブロー)と愛。平成に生まれたのんと昭和歌謡とのミスマッチ感が楽しい。

 のんがNHK朝ドラで「潮騒のメモリー」を歌ってから、すでに7年が経った。今回、のんは「新宿の女」「MISS YOU」に加え、ピンキーとキラーズの大ヒット曲「恋の季節」やハローナイツとしての新しいオリジナル曲「シャボン玉」などを披露している。7年前に比べ、ずいぶんと表現力が豊かになっていることが分かる。声優として劇場アニメ『この世界の片隅に』(16)に挑戦し、創作あーちすととしても活動している。こちらが気づかない間に、表現者として大きく成長を遂げていたようだ。

 舞台版が初演されたのは、1994年9月。下北沢の「スズナリ」という小さな劇場での公演だった。それから四半世紀、ハローナイツのメンバーは顔ぶれを変えずに公演を重ねてきた。その間、この国の経済不況はずっと続き、地方の過疎化、社会格差はますます進んでいる。シングルマザーに育てられ、亡き父親の面影を探し求める愛に対し、キティ岩城は「これからは前だけ向いて生きなさい」と背中を押す。25年前の舞台にはなかった、映画版のオリジナルの台詞だ。もともとの舞台版は東北の田舎町が舞台で、映画でも岩手県久慈市で一部ロケ撮影が行なわれている。過去に囚われ、新しいステップをなかなか踏めずにいる愛に対してキティが投げかけた台詞は、大震災を経験した東北の人たちに向けた言葉のようにも感じられる。

 好きな歌を歌うことで食べていくのは大変だが、でも歌のない生活はあまりにも味気ない。25年経っても相変わらずダメダメなオッサンたちだが、そんなオッサンたちの旅の姿を追った『星屑の町』は、日本の風土、文化に根付いた魅力的なミュージカル映画となっている。地に足を着けて生きていくことのできない人々の哀しみと喜びが、歌とともに込められている。

(文=長野辰次)

 

『星屑の町』
原作・脚本/水谷龍二 監督/杉山泰一 音楽/宮原慶太
出演/大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、のん、菅原大吉、戸田恵子、小日向星一、相築あきこ、柄本明
配給/東映ビデオ 2月21日より岩手、青森、秋田、宮城先行公開中、3月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー 
(c)2020「星屑の町」フィルムパートナーズ
https://hoshikuzu-movie.jp

 

最終更新:2020/02/27 20:00
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