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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.572

のん、6年ぶりの実写映画で見せた多彩な表現力 スターにはなれない人々の哀歓劇『星屑の町』

のんが加わることで起きた化学反応

東北なまりの強い愛(のん)だったが、歌手になる気持ちは強い。ギターの弾き語りで、「新宿の女」を情念たっぷりに歌い上げる。

 四半世紀にわたって、同じメンバーで舞台を繰り返してきたハローナイツには、派手さはないが老舗劇団のような熟成された味わいがある。そんなオッサンたちの世界に、紅一点・のんが加わることで見事な化学反応が起きた。ハローナイツ唯一のオリジナル曲「 MISS YOU」が、デュエット曲として新鮮な魅力を感じさせるものにアレンジされた。

 若い女性ボーカルが加わることで、ハローナイツは成功を収めることができるのか。そう簡単には事は運ばない。いつも斜に構えている五郎が、愛の参加を拒絶する。ハローナイツは真吾のボーカルがあってこそ。愛が加入すれば、真吾の良さを殺してしまう。それなら、今までどおりでいいじゃないかと。男たち同士の気ままな旅のほうが、五郎には心地よい。他のメンバーたちも、五郎の気持ちはよく分かる。今の生活で充分楽しいのに、欲張るとすべてを失ってしまいかねない。日陰の人生を長く歩んでいると、日の光を浴びることに恐怖を覚えるようになってしまう。

 だが、いつもは頼りないリーダー・修が珍しく強く主張する。「売れなきゃダメなんだよ」と。ヒット曲のないまま旅回りを続けてきたが、今のままでは先細りする一方で、メンバーへのギャラを渡すこともできなくなっていた。ただ歌が好きなだけでは食べていくことはできない。今さら転職する道もないオッサンたちは、厳しい現実を突きつけられていた。さらには、五郎と修のやりとりを聞いていた真吾の口から、意外な言葉が飛び出すことになる。

 映画版『星屑の町』を撮り上げたのは、長年にわたって森田芳光監督の撮影現場で助監督を務めてきた杉山泰一監督。2011年に急逝した森田監督へのオマージュ作『の・ようなもの のようなもの』(16)で監督デビューを果たし、本作は『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』(17)に続いて3作目の監督作となる。地方ロケの多い映画の撮影クルーの生活も、旅回りの芸人たちのそれとよく似ているのではないだろうか。いい年齢のオッサンたちが男同士でわちゃわちゃしている様子を、杉山監督はシンパシーを込めて映し出している。

 ハローナイツと共に旅回りを続けるベテラン歌手・キティ岩城(戸田恵子)も、シリーズ第5作『星屑の町 東京砂漠篇』、シリーズ最終作『星屑の町 完結篇』に続いての登板となる。ハローナイツもキティ岩城も、流れ者としてしか生きていくことができない。言ってみれば、「男はつらいよ」シリーズの寅さんとリリーのような存在だ。そこに親子ほど年齢が離れた愛が加わることになる。ハローナイツ、キティ岩城、愛は、一種の「擬似家族」のような関係性を築いていく。かなり駆け足にはなっているものの、舞台版にはなかった後半の展開は、歌で結ばれた“おかしな家族”の物語としても楽しめる。

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