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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.570

ドイツの鬼才監督が描いた“どん底”が放つ美しさ 実録映画『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』

犯罪者を分かりやすく描くと『ジョーカー』になってしまう

うまくセックスできないことを女性に笑われると、ホンカの怒りが爆発した。事故の影響で鼻が曲がっており、ひどい斜視だったと言われている。

 安酒とひと晩の寝床を目当てに、屋根裏部屋へと誘われ、ホンカにさんざん殴られた挙句に首を絞めらて息絶えた娼婦たち。もちろん、すべて芝居なのだが、ホンカと娼婦たちとのやりとりがリアルで生々しい。園子温監督が「東電OL殺人事件」にインスパイアされて撮った『恋の罪』(11)を観た際にも感じたが、ただ陰惨なだけの殺人シーンではなく、社会の底辺にまで降り立った者たちだけが体得できる“どん底の美しさ”が描かれているように思える。

「子どもの頃、ハンブルクの低所得者向けのアパートに家族と一緒に暮らしていたんだけれど、当番で週末に階段の掃除を僕がしていたら、突然ドアが開いて、後ろから男にボコボコに殴られている女性が現れたことを覚えている。2人とも酒を飲んでいるようだった。僕は驚いて父親を呼んだんだけど、殴られていた女性は『これは夫婦の問題だから、部外者は口を挟まないで』とドアを閉めたんだ。今でも、あれは何だったんだろうと不思議に思うし、男女間や家族内での暴力は時代に関係なく、いつでもどこでも起きていていると思う。この映画を作る際に、実はホンカが子どもの頃に悲惨な目に遭ったエピソードも撮ったんだけど、編集段階ですべてカットしたんだ。僕が思うに、ホンカは大脳の他人を思いやる部分が機能しておらず、それが過度のアルコール摂取でより酷い状況になったんじゃないかな。でも、子どもの頃につらい目に遭ったり、脳に障害のある人がすべて犯罪者になるわけではない。だから、ホンカが連続殺人を犯した理由ははっきりとは描いていないし、僕にもそれは分からない。これを分かりやすく描いたら、DCコミック原作の『ジョーカー』(19)になってしまう。人生はミステリーの連続。だからこそ、恐ろしくもあるし、面白くもあるんじゃないかな」

 アキン監督によると、ホンカが獲物を物色するために通ったバー「ゴールデングローブ」はハンブルク市内に実在するそうだ。そして、店の扉には「ホンカがいた場所」というプレートが掲げてあるという。

『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』
原作/ハインツ・ストランク 監督・脚本/ファティ・アキン
出演/ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、カティア・シュトゥット、マーク・ホーゼマン、ハーク・ボーム、トリスタン・ゲーベル、ゾフィー・シュミット
配給/ビターズ・エンド R15+ 2月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
(c)2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH
http://www.bitters.co.jp/yaneura

最終更新:2020/02/13 20:00
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