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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.570

ドイツの鬼才監督が描いた“どん底”が放つ美しさ 実録映画『屋根裏の殺人鬼 フリッツ・ホンカ』

ホンカが事件を起こした町で生まれ育ったアキン監督

バー「ゴールデングローブ」で安酒をあおるフリッツ・ホンカ(ヨナス・ダスラー)。自分よりも体の小さい、年増の娼婦が現れるのを待っていた。

 そんなどん底の物語を撮り上げたのは、ドイツ・ハンブルク生まれのトルコ系移民二世であるファティ・アキン監督。民族の違いを超えた恋愛を描いた『愛より強く』(04)がベルリン映画祭金熊賞、オスマントルコで起きたアルメニア人大虐殺を題材にした『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)がベネチア映画祭ヤング審査員賞、ダイアン・クルーガー主演の『女は二度決断する』(17)でゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞した、ドイツを代表する気鋭の映画監督だ。来日したアキン監督に、製作内情とドイツにおけるホンカの実像について尋ねた。

「ホンカはハンブルクで事件を起こしたわけだけど、ホンカが暮らしていたアパートのすぐ近くで、僕は生まれ育ち、今も暮らしているんだ。子どもの頃は親の言いつけを守らないと『ホンカに拐われるよ』と怖がらせられたものだよ。実在するモンスターというよりは、一種の民俗学的な意味での怪物だった。アパートの火事がきっかけで逮捕されたホンカは裁判で終身刑が言い渡されたんだけど、実際には刑務所ではなく、閉鎖病棟に送られたんだ。僕が10代の頃にホンカは病院を退院して釈放され、そのときは人権派と反対派で大変な騒ぎが起きたことを覚えている。僕がこの映画を撮ることにしたきっかけは、ハインツ・ストランクがホンカについて書いた原作小説がとても面白かったということ。その小説を読んだことで、ホンカも自分と同じ人間だと理解できたし、自分に問い掛けられているように思えた。今の自分の映画監督としての技量と熱量で、ホンカのような存在をはたして映画化できるのかってね。僕はこれまでプロデューサーと監督を兼ねて映画を撮ってきたんだけど、主に予算的な問題から妥協しながらの映画製作だった。でも、今回はいっさい妥協することなく映画を完成させることができた。そのことに僕はとても満足しているし、すごく開放感も感じているんだ」

 30代後半の連続殺人鬼ホンカを演じたのは、ドイツ期待の若手俳優ヨナス・ダスラー。歪んだ鼻と斜視だったホンカに特殊メイクの力を借りて成り切ったダスラーだが、素顔は美形俳優だ。連続殺人鬼もかつては純真な若者だったはずだというアキン監督の演出意図から、1996年生まれの若いダスラーが主演に抜擢された。また、ホンカの餌食となった40代~50代の娼婦たちは、警察に残っていた被害者の資料写真を参考に、きっちり芝居のできる演劇畑の女優たちがキャスティングされている。彼女たちの迫真の演技も見ものである。

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