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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 野島伸司のDNAを持つ女優・奈緒
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

野島伸司のDNAを受け継ぐ女優・奈緒『やめるときも、すこやかなるときも』で見せるヤバい女っぷり

アーヴィング公式サイトより

 日本テレビ系の「シンドラ枠」(月曜24時59分~)で放送されている深夜ドラマ『やぬめるときも、すこやかなるときも』は、過去に大切な人を失った家具職人の須藤壱晴(藤ヶ谷大輔)が広告会社で働く本橋桜子(奈緒)と出会ったことから始まる恋愛ドラマだ。

 強烈な爪痕を残すのは、桜子を演じる奈緒のなんとも言い難い辛気臭さ。物語冒頭、恋人の家に約束もせずに訪れた桜子は、玄関に女物の靴があるのを見つけ、浮気されていたことを知る。恋人はそれを弁明するわけでもなく、「別れよう」と告げると、桜子は突然、土下座をして「別れても構わないので、私の処女だけもらっていただけないでしょうか」と懇願。恋人は「重いです」と言って拒絶するのだが、この短いやりとりだけで「こいつ、ヤバいな」と伝わり、ガッチリつかまれた。一人になった後で桜子が「クソが」と言うところも含めて、人物造形が完璧である。

 この後、桜子は友達の結婚式で泥酔。そこで須藤と知り合い、酔っ払った勢いで彼の部屋に行くが、爆睡して何事もないまま朝を向かえる。「何もされなかった。下着姿なのに」と悔しがる姿がまた滑稽で笑うに笑えないのだが、この痛々しさがだんだん癖になる。

 この後、桜子は仕事で須藤と再会し恋愛関係になっていくのだが、最後に桜子が須藤を包丁で刺す――といった結末しか想像できない。

 桜子は父親が作った借金を返すため、今まで遊ぶ暇もなく必死で働いてきた。そのこともあってか、処女を捨てて早く結婚したいと焦っていた。

 こういう設定は新しいものではないが、目が離せないのは奈緒の醸し出す他人との距離感がおかしい人特有の卑屈さで真に迫っているからだろう。

 奈緒の台詞回しは独自の間があって弱々しい。目もいつも潤んでいて、自信なさげでビクビクしている。目鼻立ちは整っていて、それなりにおしゃれで美人なのに、どこか貧乏くさく華やかさに欠ける。外見と内面のバランスが常に不安定で、だからこそ挙動不審な女性を演じさせると見事にハマる。

 奈緒が大きく注目されたのは、昨年ヒットした『あなたの番です』(日本テレビ系)。あるマンションで起きた交換殺人の連鎖事件を2クールにわたって描いた本作は登場人物全員が容疑者に見えるうさんくさい人たちがてんこ盛りの作品なのだが、奈緒が演じた尾野幹葉は、有機野菜宅配サービス会社で働く独身女性で、満面の笑顔の裏で何を考えているかわからない不気味な女として話題となった。

 正直言うと、『あな番』は物語と人物造形が極端すぎたため、奈緒のいびつさがあまり気にならなかったが、『やめるときも、すこやかなるときも』は恋愛ドラマのヒロインであるため、彼女の中にある陰な部分がより際立って見える。これが狙ったものなのか作り手の意図を超えて出てきてしまったものなのかはわからないが、とりあえず奈緒のヤバさを観るためのドラマとして、毎週目が離せない。

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