コンビニ商品のプロが人脈を駆使して本を売ってみたら、出版不況の現実が暴かれた!?
#インタビュー #コンビニ
5万8669ーー。
これは、2019年9月現在(「月刊コンビニ」調べ)、国内に店舗を構えるコンビニの数だ。全国のスーパーの数は2万2217店舗。コンビニが日本で最も数の多い小売店であることは間違いない。年間来店総客数は174億2665万人(JFA 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会/2018年)にも上り、コンビニは私たちの生活に欠かせない、“ライフライン”のひとつと言っても過言ではないのだ。
そんなコンビニの表も裏も書かれた本『コンビニが日本から消えたなら』(KKベストセラーズ)が12月末、刊行された。著者は日本唯一のコンビニ流通アナリスト・渡辺広明氏だ。
自身も大手コンビニチェーン・ローソンの現場から商品企画まで、幅広い業務を経験し、長年同業界を支えてきた。これまでに計730品の商品を開発、直近では、いまコンビニの店頭に並ぶ「SIXPACK プロテインバー」(UHA味覚糖)の開発に携わり、人気商品に押し上げた実績の持ち主でもある。
そんな氏の著書には、2019年に注目を集めた「24時間営業問題」「消費税の軽減税率制度」「キャッシュレス決済」「食品ロス」「自然災害とコンビニ」など、コンビニに大きくスポットが当たったニュースに始まり、コンビニ業界の動向が日本の小売業、社会問題の対策にいかに影響を与えているのか、さらには氏が見てきた裏事情などが存分に詰め込まれている。
その内容の興味深さはさることながら、注目したいのは同書の発売にあたって、氏が策を講じた流通戦略の斬新さだ。
「私は長期に渡って流通の仕事に携わってきました。その立場から見ると、書籍の流通には、まださまざまな可能性があると感じていたんです」(渡辺氏)
現在の出版業界(中堅以上の版元)において、「2000部以上売れる本でなければ書籍化は難しい」とも言われる。そんな状況の中、氏の著書の初版部数は5000部。
「商品を作って売る上で、『その製造現場を知る』ということが非常に重要だと考えています。そのため、私は編集者に頼んで、自分の本を印刷していただく印刷会社に見学に行かせてもらったんです。著者が印刷会社にまで来るのは異例だったようで、驚かれました。でも、そのおかげでわかったことは、やはり紙の本というのはコストが割高ということ。
印刷から製本までの全工程を一手にやれるのは、一部の大手印刷会社のみです。そのほかの印刷会社はいくつかの下請け企業と提携して、工程毎に作業を分担しています。そうなると、それぞれに支払われる金額は当然少なくなりますよね? なら、せめてまとめて大量受注したほうが効率はいい。でも、今出版業界は多品種小ロットに舵を切っているため、本来なら1時間で1万3000部刷る印刷機を使うのに1800部しか刷らない、なんてことがザラにあるわけです。これだと印刷会社はほとんど利益にならない。
5000部刷るということは、少なくとも2500部は売り切らなければ出版社はおそらく赤字でしょう。この数字を確実に売り切って、さらに出版社、印刷会社の人たちにも儲けてもらうためには重版するしかない。そのために、私は自分で販売戦略を立てることにしたんです」(同)
そこでまず、渡辺氏が動いたのは、
(1) Amazonで発売前の予約数を100冊まで伸ばし、550冊を発売3カ月で販売
(2) 1店舗100~200冊仕入れてくれる店を3店舗作り、400冊を店頭やイベントで販売
(3) 1店舗20~50冊仕入れてくれる店で1550冊販売
の3つ。(1)は、そもそもAmazonは最初の注文数を的確に見積もるため、発売前に100冊以上の注文があった場合、その分仕入れてもらえるだろうという予測があった。一方で、Amazonは過剰な在庫を抱えないため、2回目以降の注文は慎重になる。そのため発売後、Amazonサイドの当初の予想よりも売れ行きが良かった場合、早々に品切れを起こす可能性があった。年末年始に品切れが起こると、商品補充にも時間がかかってしまう。“売り時”を逃さないよう、準備しておく必要があった。
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