刑務所が処罰から更生の場へと変わりつつある? 受刑者たちの内面に迫る『プリズン・サークル』
#パンドラ映画館
TC訓練生の再入所率は9.5%
日本の刑務所関係者にTCの存在を広めた坂上監督だが、フリーのドキュメンタリー監督が国内の刑務所を取材するのは容易ではなかった。企画書を受け取ってもらうまで6年、厳しい制限下のなかでの撮影に2年、編集作業にも苦心して本作を完成させた。ある人物との約束があったから、最後までやり遂げることができたと坂上監督は振り返る。
坂上「死刑が確定していた青年と文通を重ね、面会もしていました。裁判所をリサーチのために訪ねた私を、彼のお母さんが被害者遺族と間違って謝罪してきたことがきっかけでした。面会した彼に、欧米ではTCが盛んなこと、国内の刑務所でもTCの導入が始まったことを話すと、目を大きくして興味を示していました。彼は殺人を犯して死刑が確定していたわけですが、やはり彼自身も子どもの頃にひどい虐待に遭っていたんです。彼みたいな、重い罪を背負っている人こそ、TCは必要じゃないかと思うんです。映画が完成する前に彼は処刑されましたが、彼との約束を果たしたいという想いで大変だった編集作業も乗り切ることができたんです」
TCを受けていない訓練生の再入所率19.6%に比べてTC訓練生の再入所率は9.5%。TCの効果は数字上でも実証されているものの、問題点もある。「島根あさひ」の収容者数2000人に対し、30~40人程度しかTCを受けることができない。「島根あさひ」以外の刑務所にも広めることはできないのだろうか?
坂上「2006年に監獄法から処遇法に改正されたことで、更生が受刑者にも義務付けられるようになりました。でも、やはり刑務所は受刑者に厳しくあるべきという考え方が法務省内に根強くあるため、なかなか広まることができずにいるんです。そのためにも、まず私たちが刑務所は法を犯した人たちを罰するための場所という認識から、更生させるための場所というふうに考え方を変えていく必要があるように思います。この映画を観てもらうことが、そのきっかけになればいいですよね。そう考える人たちが増えれば、更生した出所者たちの生きづらさも軽減され、再入所率も減るはずなんです。求められているのは、寛容さのある社会ではないでしょうか」
近代犯罪史上最悪の事件となった京都アニメーション放火犯や無期懲役が決まって法廷で万歳三唱した新幹線通り魔殺人犯らに対し、もっと厳罰に処するべきという声もあるが、罪の意識のない犯罪者を罰しても、残された遺族の心の救いに繋がるとは限らない。手間の掛かるTCだが、長い目で見れば街から犯罪を減らし、無駄な税金を使わずに済むことにもなる。刑務所の在り方、過ちを犯した者への対応を、再考すべき時期にきているようだ。
『プリズン・サークル』
監督・制作・編集/坂上香 撮影/南幸男、坂上香 録音/森英司 アニメーション監督/若見ありさ
配給/東風 1月25日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
(c)2019 Kaori Sakagami
https://prison-circle.com
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