刑務所が処罰から更生の場へと変わりつつある? 受刑者たちの内面に迫る『プリズン・サークル』
#パンドラ映画館
即興劇中に泣き崩れる加害者
東京からほぼ1日を費やして島根県浜田市まで通い、『プリズン・サークル』を撮り上げた坂上監督は、会話の大切さを語る。
坂上「TCを受ける訓練生は、まず他の人たちの話を聞くことから始まるんです。最初は支援員が自分のことから語り始めます。本来なら、心理士や福祉士はプライベートなことは話さないものですが、ここでは支援員が胸の内を開かないと、訓練生たちも心を開いてくれません。支援員が家族との葛藤があったなど語ることで、支援員もただのエリートじゃないんだと訓練生は理解し、自分のことを話すようになるんです。他の訓練生たちの体験談を浴びるように聞いているうちに、新たに加わった訓練生も自分の生い立ちなどを客観的に見つめ、それまで蓋をしていた自分の本音を口にできるようになっていくんです。人の話をちゃんと聞き、自分の本心をきちんと人に伝えるということは、TC訓練生に限らずにとても重要なことだと思います」
訓練生たちが輪になって語り合う「サークル」と同じように、TCで重視されているメソッドが「ロールプレイング」だ。訓練生たちが犯した犯罪を、本人が加害者、他の訓練生たちが被害者や関係者などの役割を演じて再現する。芝居のレッスンなど受けたことのないだろう訓練生たちだが、それぞれの役を演じているうちに感情がどんどん溢れ出てくる。またアドリブでの演技とはいえ、被害者と対話することで、加害者は被害者の心情に触れることになる。被害者や関係者を演じているのも、過去に罪を犯してしまった人たちだ。即興劇ながら事件当時の様子がリアルに再現され、加害者役の若者はボロボロと泣き崩れる。演じることは演者自身の内面にも大きな影響を与えていることが分かり、とても興味深い。
坂上監督は中学のときに校内で集団リンチを受けたという辛い過去を持っている。だがその一方で、厳格だった家庭内では自分より立場の弱い弟に対しては加害者でもあったという。高校途中から海外に留学し、ピッツバーグ大学卒業後にドキュメンタリー監督の道へ。欧米では1960年代から注目されていたTCに興味を持つようになり、米国の刑務所を舞台にしたドキュメンタリー映画『ライファーズ 終身刑を超えて』(04)や著書『癒しと和解への旅』(岩波書店)、『ライファーズ 罪に向き合う』(みすず書房)などを発表している。坂上監督の映画『ライファーズ』を観た刑務所関係者が、「島根あさひ」に国内の刑務所では初となるTCを導入。そのことがきっかけで、坂上監督は「島根あさひ」を訪ねるようになった。
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