ゲームや動画は序の口でしかない! テックのプロが解説する『5G』の最新動向
#5G #通信規格
サプライズ旅行で、ベッドに花束が
現在、海外のとある大手リゾートホテルでは、5G時代を見据えて自らキャリア通信ビジネスを提供すると公言しているという。目指すところは、ユーザーが旅行を計画するところから家に帰るまで、すべての過程でデータによる予測を前提にした最良のサービスを提供するというものである。
想像してみて欲しい。
あるユーザーがホテルで恋人のためのサプライズを計画していたとしよう。しかし、仕込みの時間が取れず思うような用意ができなかった。そんな時リゾートホテル側は、フルコネクテッドな5G環境で集めたデータからその事実を見破っている。ユーザーとその恋人が部屋を訪れた瞬間、目の前には100本のバラが……。恋人は歓喜してユーザーに抱きつく。ユーザーは当初は少し困惑するけども、やがてドヤ顔をしながらこう言い放つ。「君のためにだったら、お安い御用さ」。帰り際、フロントを訪れたユーザーは、待機していたホテルの従業員に礼を言う。すると、ホテルの従業員は軽く笑みを浮かべながらこう小声で囁く。「またのお越しをお待ちしています」。ユーザーはそれ以来、気の利くそのホテルの常連になった。
また反対に、一切干渉して欲しくないあるユーザーがいたとしよう。ホテル側は、そんな性格も見抜いている。その場合、フロントの受付と精算時以外、まったくホテルの従業員は現れない。ユーザーは思う。「妙に落ち着くホテルだな……」。後日、そのユーザーはそのホテルの常連となった。
両方のエピソードに共通するのは、「エクスペリエンスの再現」である。企業が前もってどのような体験が最適かをシミュレーションし、実践してみせたわけだ。
5Gの世界では、そのようなサービスが数多く登場するとクロサカ氏は話す。
「反対に、何もかもを知られていることを、気持ち悪いと思う人が現れるかもしれません。実際、そういう社会の到来を見据えてネックになるのがプライバシーや個人情報の取り扱い。今後、フルコネクテッドな状態で集めたデータについて、誰が責任を取るかなど、さらに議論が深められていく必要があるでしょう」
一方で、5Gの時代には個々人がどこまで企業や社会にデータを明け渡すかを判断してくことが重要になる。ここに正解例はなく、自ら「便利・気持ち悪い」の境界線を決めて主張していくことがユーザーにとっては重要になってくるという。
「これまでもそうでしたが、何がプライバシーに対する権利利益侵害なのかは、ユーザー自身が決めていくことが理想。そういう突き上げがあってこそ、5G時代の洗練されたサービスがうまれてくるはずです。いずれにせよ、何が人々にとって便益やメリットか、また何が人々にとって不快なテクノロジーか、その境界線を5Gの普及が一気に顕在化させるはずです」
クロサカ氏の話を聞く限り、動画がストレスなく見ることができる、よりリッチなオンラインゲームが楽しめるなどは、5G社会が実現した際の“上澄み”でしかない。世の中が根本的に変化するなか、個々人が“5Gリテラシー”を身につけ、テクノロジーのメリットを享受しながらも自己防衛の術を同時に考えていくことが必須となりそうだ。
クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。
『5Gでビジネスはどう変わるのか』
1870円/日経BP社
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