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隠蔽された日本兵の精神障害【1】

なぜ“復員”できなかったのか? 戦中も戦後も精神科病院に隔離…PTSDになった日本兵の末路

海外派遣後に自殺も……自衛隊のメンタルヘルス

 NHKで放送された『隠されたトラウマ』を通して、確かに日本の精神障害兵士に注目が集まった。それ自体は好ましいことではあるが、「やはり遅すぎた」というのが古屋氏の率直な感想だ。

「未復員の方々は、国家に人生を壊されたばかりか、日本の精神科医療政策の中で、残された人生の時間までも奪われた。しかも、残念ながらそのほとんどが亡くなってしまった段階で、ようやく日の目を見たわけです。さらに言えば、彼らと同様に超長期入院を強いられている精神障害者の方は、現在も数多くいます。11年以降の統計では精神科病棟で亡くなる方が年間2万人を超えており、1日に50人以上の方が入院中に亡くなっているという現実は何も変わっていない」

 この国の実態として、一度入ったらほぼ出られない精神科病院もいまだに多い。

「退院できる方はたくさんいます。ソーシャルワーカーという福祉職から見れば、問題は患者さんの病状ではなく、むしろ患者さんが地域で暮らせる環境を整えられないことです。医療制度的にも問題があって、要は精神科以外の診療科だと入院期間が長くなるほど診療報酬の点数が減り、病院としては赤字になるのに、精神科の場合は病床さえ埋まっていれば最低限の経営ができてしまう。長期間ベッドを埋めてくれる患者さんが固定資産化している状況です」

 精神科病院は経営的にうまみのある患者を手放そうとしないし、家族も「入院させておいてくれ」と言い、地域で支援する体制も不十分。その間、精神障害者は社会から隔離され続ける。このような事態は、ほかの先進国からすると考えられないと古屋氏は指摘する。

「『隠されたトラウマ』でも思わず言ってしまいましたが、日本だからこういうことが起きているんです。例えばアメリカでPTSDの問題に注目が集まったのは、国民がベトナム帰還兵のケアに懸命に取り組んだから。一方、日本は臭いものにふたをするという体質で、なによりも、精神障害者の方々それぞれに人権があるということに非常に鈍感ですよね」

 ことは戦傷病者だけの問題だけでなく、日本の精神科医療全体の問題でもある。それを踏まえた上で、ようやく日の目を見た日本兵のトラウマの記録から得られる教訓はあるのか?

「教訓を得ようとするならば、まず自衛隊員のメンタルヘルスの状況をきちんと統計で出すこと。例えば15年の政府答弁で、海外派遣された自衛官のうち54名が帰国後に自殺していたことが明らかになりました。その主たる原因はPTSDやうつ病だと思うのですが、情報が開示されない以上、検証すらできません。だから、とにかく事実を隠さないでほしい。統合失調症は約100人にひとりが発症しますし、うつ病なども含む精神障害は現在も増え続けています。それが『自衛隊の中にはひとりもいません』などということはあり得ないでしょう」

 現在も政府による公文書の改ざんや隠蔽がたびたび疑われるこの国にとって、情報の開示はもっともハードルが高いように思える。しかし、それができなければ、同じ過ちを繰り返しかねない。(月刊サイゾー9月号『新・戦争論』より)

最終更新:2020/01/08 12:12
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