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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 夏帆はいま一番使いたい女優?
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

いま一番”使いたい”女優? 夏帆『ひとりキャンプ』で見せた、自然体な演技の集大成

転機となった『みんな!エスパーだよ!』

 中でも大きかったのは、22歳 の時に出演したドラマ『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)だろう。本作で夏帆が演じたのはヤンキー風の女子高生で、清純派のイメージを覆すような粗暴な振る舞いやしゃべり方、エッチなシーンも演じ、今までにない個性を見せることに成功した。

 それ以降の夏帆は、清純派美少女だけでなく、さまざまな役を演じるようになる。中でも高く評価されたのが是枝裕和監督の『海街diary』で、この作品で20代の女性を自然に演じられることを見事に証明した。

 そんな自然な演技の集大成といえるのが、『ひとりキャンプで食って寝る』だろう。本作はタイトルの通り、ひとりキャンプを楽しむ男と女のドラマで、三浦貴大が演じる健人が主人公の奇数話(監督:横浜聡子)と、夏帆が演じる七子が主人公の偶数話(監督:冨永昌敬)が交互に放送されるという異色の構成だった。どちらのパートも力のある映画監督を起用しているのだが、放送されている映像のテイストはYouTubeで個人が配信している動画に近い。

 特に七子のパートは、ひとりで釣りをしたり、釣った魚を調理している場面がほとんどなので、一体何を見せられているのかと思わされる。面白いのは、七子がボソボソとつぶやく独り言で、これが程よく乱暴で、品がないので、好感が持てる。人の目を意識してい ない時に出てくるその人だけの顔を盗み見ているような生々しさがあった。

『架空OL日記』でも小声で他人の悪口を言う場面が面白かったのだが、こういった女性の素の姿を魅力的に演じられるからこそ、引く手あまたなのだろう。それはつまり、普通の人として作品に溶け込めるということだ。

 実際、面白い作品を見ていて、見づいたら夏帆が出ていたということは多い。おそらく夏帆は今後、30代に向かっていく中で、小林聡美、室井滋、もたいまさこのような普通の女性を演じられる女優となっていくはずだ。その時はぜひ、小林たち3人の出世作となった『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系)のような作品に出演してほしい。

 舞台劇のような即興性の高い空間に立った時に、夏帆の演技にどのような化学変化が生まれるのか? 想像するだけで楽しみである。 

●『ひとりキャンプで食って寝る』第12話 TVer(1/25まで配信中)
https://tver.jp/corner/f0044399

成馬零一(ライター/ドラマ評論家)

1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。ライター、ドラマ評論家。主な著作に『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)などがある。

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Twitter:@nariyamada

なりまれいいち

最終更新:2020/01/09 14:00
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