東京五輪、外国人労働者、フェミニズム……令和元年のドキュメンタリーは何を描いた?
#ドキュメンタリー
ギャラクシー賞選奨委員を務めるライターの西森路代が、2019年に気になったドキュメンタリーをピックアップ!
年々、ドキュメンタリーの重要性が高くなっているように感じる。昨年も、さまざまな問題をスルーしないように、忘れ去られないように記録したドキュメンタリーが多数あった。そんな中から、「オリンピック」「フェミニズム」「外国人労働者」という3つのテーマに分けて振り返ってみたい。
オリンピックは果たして希望なのか
2019年、常に話題としてあったのが、東京オリンピック・パラリンピックではないだろうか。夢や希望を持ち心待ちにする面もあるものの、歴史の中で考えるとさまざまな出来事の上に成り立っているということは大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の中でも描き出されていた。NHKでは、ドキュメンタリー作品でも、過去のオリンピックの知られざる一面に焦点を当てたものも多かった。
8月にNHKスペシャルで放送された『戦争と“幻のオリンピック” アスリート 知られざる闘い』(https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019101619SA000/)は、1940年に戦局の影響で中止となった幻の東京オリンピックを描いた番組だ。当時、オリンピックに出場して活躍することを期待されていたが、その願いがかなわなかった選手たちのその後を、現代に活躍するアスリートたちが追う。
オリンピックで英雄となるはずだった選手たちが、戦地へ向かわされ、戦争のために命をなげうったという現実、そしてそれが国民の戦意を高めるために利用されたという事実が映し出されていた。また『いだてん』で皆川猿時が演じた元日本代表水泳監督・松澤一鶴がスポーツの精神と選手を尊重し、戦争に反発していたことも描かれていたため、このドキュメンタリーが『いだてん』のアナザーストーリーのようにも見えた。
一方、10月に同じくNHKスペシャルで放送された『東京ブラックホールII 破壊と創造の1964年』(https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019103006SA000/)は、同年に行われた東京オリンピックを、山田孝之が主演するドラマ部分と、映像資料などを使ったドキュメンタリー部分を織り交ぜてつづられている1作だ。
前回の東京オリンピックが開催された時代は、高度経済成長期とも重なることから、数々の映画やドラマを見ても希望に満ちあふれた時代だと思われてきた。しかし、オリンピックのための突貫工事で、地方からの出稼ぎ労働者が酷使され、行方不明者は8万人を超え、貧富の格差は拡大。公共工事をめぐる汚職は合計約2,000件に上り、あるアンケートによると、「オリンピックに費用をかけるより、ほかにすることがあるはず」と考える人は、実に国民の約6割もいたという。
番組では、オリンピック終了後も、不況や社会のひずみが続いていた点についても隠さずに描かれる。そして、現在日本が抱えている問題の多くが、この時期に根を持っていたと知らしめることが、番組のひとつのテーマになっていると思われた。
番組の終盤、「どれだけの人が夢をつかめただろうか。幸せを見つけただろうか。1964年を支え、報われることのなかった人たちに金メダルを」というナレーションとともに、画面には、黄金に輝く鉄球が迫ってくる。それはどう見ても、あさま山荘事件の映像でよく見た、あの鉄球なのであった。
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