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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.564

若者は退屈さから逃げるために戦場へ向かった! 新技術が生んだ新しい映画『彼らは生きていた』

化学兵器、戦車も投入された世界戦争

英軍の秘密兵器として極秘開発された初期型戦車。切り札の投入によって、戦局はいっきに変わると思われたが……。

 古い戦争映画でよく見た、塹壕だらけの最前線へと新兵たちは放り込まれる。塹壕は迷路のように延びている一方、地上には砲撃によってクレーターだらけとなった寒々しい荒野が広がる。ドイツ軍との間には鉄条網が敷かれ、有刺鉄線には銃弾に全身を撃ち抜かれた兵隊が取り残され、地面に倒れ込んだ馬には無数のハエがたかっている。前線に配属された新兵たちは塹壕掘りと監視役に分かれ、狭い塹壕内での日々を過ごすことになる。

 仮眠する兵隊の顔を舐めるネズミが丸々としている。死んだ兵隊たちの腐肉をたらふく食べているせいだ。時折、ドイツ軍が仕掛けた地雷が炸裂する。地面全体が一瞬膨れ上がり、物すごい大音響が響く。こんな地雷を踏んだら、ひとたまりもない。スティーブン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98)やクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(17)よりも、さらに過酷でリアルな戦場がここにはある。

 兵士たちの休日も映し出すことで、この映画は戦場の過酷さをより際立たせている。4日間にわたって最前線での務めを果たした部隊は、交代で後方に設営された宿舎で休むことができる。若い彼らは体力を持て余し、ラグビーや綱引き、楽器演奏に興じる。まるでボーイスカウトの合宿のようだ。近くの町には売春宿があり、そこで初体験を迎えるヤングボーイたちもいる。機関銃を撃ち、銃刀を握る手で、女たちを抱く。戦場へと旅立った少年たちは、もう少年ではなくなっていた。

 やがて、姿の見えないドイツ兵との決戦が近く。スクリーン全体を黄色いもやが覆う。化学兵器のマスタードガスだ。数秒間でガスマスクを装着しないと無事ではいられない。対するイギリス軍は、秘密兵器の菱形戦車や火炎放射器を投入する。第一次世界大戦は軍用機も含め、テクノロジーが生み出した大量破壊兵器が実戦投入された戦いでもあった。

 ニュージーランド出身のピーター・ジャクソン監督が、100年以上も昔の第一次世界大戦に関心を抱いたのはなぜだろうか。その理由を探っていくと、興味深い事実が浮かび上がる。

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