それでも血液クレンジングはなくならない。トンデモ美容医療との付き合い方
2019年、巷を騒がせた血液クレンジング問題。これに端を発し、トンデモ美容医療の存在が注目を浴びた。
血液クレンジング(血液オゾン療法)とは、静脈から採血した血液にオゾンを注入し、再び体内に入れるもの。赤黒かった血液がキレイな明るい赤色になるとして、美容に熱心な層を中心に主にSNS発で広まっていた。
しかしすでにさまざまなメディアで報じられている通り、血液クレンジングは医学的な有用性が薄く、この施術を行う医療機関が謳っているような抗酸化作用などは得られないという。
同様に、「がんに効果がある」という触れ込みの高濃度ビタミンC点滴にも、「美白効果がある」という白玉点滴についても、効果はないとして“トンデモ美容医療”認定されつつある。
だが現在でも、血液クレンジングを実施するクリニックは多くある。つまり、この施術を求める人々がいるのだ。
トンデモ美容医療の動向をウォッチしている五本木クリニック・桑満おさむ院長は、大学生のお子さんたちに「効果がないとしても、やりたい人はファッションでやってるんだからいいんじゃん?」と言われたという。医療者として、またトンデモウォッチャーとして見解を聞いた。
桑満 おさむ・五本木クリニック院長
1986年に横浜市立大学医学部を卒業し、1988年に横浜市立大学医学部病院 泌尿器科で勤務する。その後、1997年2月に五本木クリニックを開院。資格・所属学会:目黒区医師会がん検診委員、目黒区医師会地域医療公衆衛生委員
副作用のない薬はない
――確かな効果、エビデンスがなくとも、血液クレンジングを受けたい人はいるのですよね。
桑満「自己満足のためにお金を使いたい人はいっぱいいますよね。でも、血液クレンジングが毒にも薬にもならないものならいいけれど、毒になる可能性があるということは言っておきたいです。
血液クレンジングを推奨する「日本酸化療法医学会」は、この10年間で血液クレンジングが全国で年間7万回近く行われていて、これまで医療事故はゼロだと言っている。医療事故がなく安全なのだから批判するなと。しかし、これはおかしいのです」
――どういうことですか?
桑満「医学的に見て、副作用のない薬はないんです。たとえばロキソニン。誰でも飲んだことのあるような馴染み深い薬ですよね。しかしロキソニンも副作用としてたまに重篤な肝障害が起こり、死亡例もある。でもロキソニンが年間日本でどれだけたくさん処方されているかと考えれば、それは起こってしまっても仕方がない。
ここ10年、年間7万回も血液クレンジングをやっているとして、少なくとも70万回は処方されているというのが本当なら、それだけ処方されていて、何のトラブルもない医療行為というのはありうるのか? それがひとつの疑問としてあります」
――たしかに70万回やってどのクリニックでも一切何の問題も発生していないといわれると不可解です。
桑満「たとえば医師がロキソニンを処方して、患者さんの肝機能に異変が起こったとします。すると医師は製薬会社に伝えて副作用として報告・相談する義務がある。因果関係はわからないけれど、それでも必ず報告するんです。
そう考えると、もしかしたら、血液クレンジングをやっている医師およびそれを勧めている界隈では、そうした報告システムが取られてない可能性もありますよね。70万回やりました、でもノートラブルでした、って僕は信じられない。
もちろん医師も常にノートラブルを目指したいけれど、現実にはそうもいかない。ある人に効果があるものが、皆に効果があるわけではないじゃないですか」
――患者さんの体はそれぞれ違うので、万人に効果がありリスクゼロという医療はないわけですね。
桑満「血液クレンジングでは、針を出し入れすることによる内出血、あと注射により血腫を作ってしまうこと、それに伴い感染する可能性など、いくつものトラブル要因は考えられます。その報告もないのでしょうか。
それと、血液を出し入れするにもかかわらず、施術の映像を見ると、手袋もしないで器具を扱っている看護師や医師がいました。衛生観念にも疑問符がつきます。
さらにもう一つ。血は体外に出すと必ず凝固するので、固まらないようヘパリンという抗凝固薬を使うのですが、ヘパリンによるアナフィラキシーショックについては考慮されているのかどうか。そもそもヘパリンによるアナフィラキシーショックは日本酸化療法医学会も報告しているはずなので、これで安全を謳うのはおかしいんですけどね」
水素と酸素だけじゃ水にならない
――医師という肩書の人物が、「これはとても体に良いものです」と勧めると、疑いを持たずに受け入れてしまう人は多いのではないでしょうか。
桑満「医師だって、本当に効果がある治療ならば、自由診療でぼろ儲けしても良いと僕は思います。だけど、効果がないものでぼろ儲けするのはよくないし、詐欺ですよね。
本来それは行政が動くべきでしょう。詐欺だったら警察が動きますよね。国民に被害が及ぶような医療行為、もしくはそれに類似する行為があれば厚生労働省が動くべき。でも犠牲者が出ないとダメで、動かない」
――医学界において、「あの医者の治療行為はおかしいのではないか」という声は上がらないのでしょうか。
桑満「医学界に、トンデモ医療に対する自浄作用があるかないかでいえば、ないです。まず偉い先生方は、『そんなの、引っかかる方が悪いだろう』と相手にしません。
WELQ問題(※)が起こったとき、僕は都内の大学病院で講演会をやったんですけど、WELQのことがあれだけ大騒ぎになっていたのに、講演会に来た医療関係者でこの問題を知っている人は6割ほどでした。忙しさにかまけて世の中を知らなすぎる医師がいっぱいいる、という側面はあると思います」
(※WELQ問題:株式会社ディー・エヌ・エーが運営していたヘルスケア情報キュレーションサイトの「WELQ」が、医療の素人であるライターが書いた不正確な医療記事を大量に掲載、Google検索の上位を独占していたことが発覚した問題)
――そんな中でも、日本医学会は2010年に、ホメオパシーに対する見解を出しました。ホメオパシーが医療関係者の間で急速に広がったことへの「強い戸惑い」が背景にあり、<ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です>と明確に述べていますね。
桑満「学会がこうした見解を示すのは非常に珍しいこと。なぜ見解を述べたかというと、死亡事故が起こったからです。2009年に山口県で、ホメオパシー医学協会に所属する助産師が、新生児にビタミンKを与えず代わりにレメディを与え、新生児はビタミンK欠乏症によって死亡しました。これほど悲惨な事件があってついに危機感を抱いたわけです」
――ホメオパシーにしろ、科学を無視した医療行為であってもそれを信じてしまう人はおり、種々のトンデモ医療・ニセ医療に騙されてしまう人も絶えません。
桑満「騙される人が悪いわけではないけれど、それを信じてしまっている人にはなかなか言葉が届きません。僕らができることは微力ながら、これ以上騙される人を増やさないことだと思います。
また、科学の知識を軽視しないことも大事です。難しいことではなく、理科の授業で習うようなことです。
たとえば、H2とOで水。でも、ここに水素があって、ここに酸素があっても、それだけでは水にならなくて、化学反応を起こす必要がある。化学反応を起こすためにいるのは、エネルギー。つまり、水素と酸素があって、火をつけることによって水になる。
さて、そうすると、「酸化」とか「水素水」の話もおかしいぞとわかってきませんか?水素水は体内の酸化を防ぐ、元に戻すといっているわけだけれど、そんなもの戻るわけがありませんよね。
血液クレンジングも似たような話です。O3(オゾン)を足すことにより血液に酸素をあげるよ、といっているわけですけど、酸化を防ぎたいって言って水素ガスを吸ったり水素水を飲んだりしているのに、なんで血液クレンジングで酸化させようとするのかな、と。
こうした基礎的な理科の知識を持たないまま生活している大人は多いですから、お子さんと一緒に学び直してみるのもいいかもしれません」
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