“コメディは最後の砦” ポリコレ検閲ばかりで萎縮する言論に喝! レズビアンネタもかます 『デオン・コールの情け無用』
#スタンダップコメディ #Saku Yanagawa
音楽もダメ、映画もダメ。コメディが最後の砦だ
そして彼はおもむろにポケットからネタ帳とペンを取り出し、渾身のひとことネタを披露していく。実はこのスタイル、デオンの十八番でジョークが受ければ、したり顔で観客を見つめ、受けないと容赦無くネタ帳から消していくものだ。
本作中でも5本のひとことネタを披露したのち、最後にレズビアンをネタにしたジョークを言ってみせた。それもレズビアンを意味するスラングの”Dyke”というぎりぎりの表現を使って。これにたじろぐ客席に向かって急に真面目なトーンでデオンは言う。
「これは君たちの反応を見るためにわざと言ったジョークなんだ。時々客が無反応になる。今アメリカのコメディはパンチがない。軟弱で遠慮して話す。アメリカらしくない。みんな小さなことにビクついている。音楽もダメ、映画もダメ。コメディが最後の砦だ。崩れたら終わりなんだ。臆病っていうだけで台無しになる。違う考えを排除しちゃダメだ。俺は客を赤ん坊扱いしないし、きついことも言うぜ。他人をリスペクトしろよ。違う考えのヤツとの出会いは転機だ」
この言葉にこそスタンダップコメディアン、デオン・コールの信念が集約されている。
昨今のポリティカルコレクトネス遵守の流れでコメディアンが自らギリギリの部分に切り込むことをやめてしまった現状を彼は心底憂いている。私がシカゴで直接話をした際にも、コメディを社会に切り込むことのできる貴重な手段として捉え、それを続けることが自身の使命と語っていた。そしてそれによって起こりうる批判も覚悟であえて果敢に挑んできた。
この後もどぎつい下ネタをかましたかと思えば、増加する自殺率に警鐘を鳴らし、最後にはそれすらも笑いに変えてみせた。最後の大オチを決めたデオンは万雷の拍手に見送られながら舞台を後にした。アメリカの、とりわけスタンダップコメディの観客は正直だ。舞台上のコメディアンと対峙しているかのように、決して受身ではない。だからこそよいと思ったものには惜しみない賛辞を送る。このスタンディングオベーションがなによりノースカロライナの劇場に詰めかけた観客の満足度を物語っていた。
アメリカにおけるコメディと今の日本のお笑いが纏う役割は異なるかもしれないが、笑いが権力や社会の矛盾に少しでも切り込める「最後の砦」としての可能性を秘めているのなら僕はその可能性を信じたい。
デオン・コール
1972年シカゴ生まれのスタンダップコメディアン。全米各地で公演を行うほかコナン・オブライエンの”Conan”の構成作家を担当。TVシリーズ”Angie Tribeca”にも主演するなど俳優としても活動。
『デオン・コールの情け無用』
黒人コメディアン、デオン・コールの最新作。誰もが言いたいことを言えなくなってしまった時代に風穴をあける本音に満ち溢れた痛快スタンダップ コメディ。
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