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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > M-1で起きた4つの「うねり」
テレビウォッチャー・飲用てれびの「テレビ日記」

『M-1』下馬評を覆したミルクボーイの漫才と、4つの「うねり」

ナイツ・塙「和牛とかまいたちがちょっとすごすぎる」

 3組目、かまいたちの勢いに続いたのは、敗者復活の和牛だ。ボケ役の水田信二とツッコミ役の川西賢志郎。『M-1』に5大会連続で出場し、3大会連続で準優勝にとどまってきた彼らは、多くが認める優勝候補でもあった。去年の『M-1』が終わった瞬間から、優勝候補だったといえるかもしれない。

 そんな和牛が、今回は準決勝敗退。しかし、彼らはやはり勝ち上がってきた。視聴者投票で2位のミキを18万票近く引き離す約65万票を獲得し、本戦のステージへと舞い戻った。

 舞台は整った。かつてのサンドウィッチマンやトレンディエンジェルのごとく、敗者復活からはい上がった勢いで優勝をもぎ取る。そんな美しい筋書きを、見ている側はいやが上にも期待してしまう。美しい筋書きで魅せる、彼らの漫才のように。

 ネタは、引っ越し先を探す川西が、不動産屋の水田に連れられて内見に行くという、コント仕立ての漫才。2人は扉を開けて、いくつもの部屋に入っていく。しかし、そのコント自体への入り口はどこにあったのか。「お客さんやってくれる? 俺は不動産屋やるから」といった、わかりやすい入り口はどこにもなかった。にもかかわらず、 開始20秒ほどで、見ている側はいつの間にか彼らの世界に招き入れられていた。

川西「引っ越しのときの部屋選びって大変じゃないですか。希望の条件伝えても、なかなか理想のお部屋に出会えないでしょ?」

水田「まあ、納得のいく部屋が見つかるまで、何軒も下見するのが一番ですけどね」

川西「実際に見に行くっていうのが大事なんやね」

水田「ですから、うちのお客さまにはなるべくたくさんの物件を見ていただいて、気になるお部屋があったらもう一度……」

川西「なんか始まってます?」

 その後も、舞台の前後を使った場面の転換、ツッコミ役がいつの間にかボケ役になっている後半の転調、ひとつの物語を読んでいるようなネタが、2人によって切れ目なく織り成されていった。

 和牛の漫才を見終えたところで、審査員のナイツ・塙がコメントする。

「和牛とかまいたちがちょっとすごすぎるので、ほかの出演者、これから大変かなと思いますけどね」

 残り7組を残したこの段階で、暫定1位がかまいたち、2位が和牛。『M-1』の常連で実力派の2組が、抜きんでた技術と笑いの量で「うねり」を起こした。それにより番組は、優勝争いがすでにこの2組に絞られたかのような空気になった。過去何度も『M-1』の舞台にはね返されてきた芸人が、ラストイヤーに、あるいは敗者復活の舞台から、優勝をもぎ取る――そんな物語が番組の中にできつつあった。

 しかし、盤石かに見えた物語は反転する。この後に待っていたのは、今大会最大、あるいは『M-1』史上最大ともいえる「うねり」だった。

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