テレビ局の報道フロアは格差社会の縮図だった!? 視聴率に揺れるニュースの裏側『さよならテレビ』
#パンドラ映画館
社員キャスターの表情が固かった理由
東海テレビの正社員である福島アナは、契約社員や派遣社員よりも格段上の高給取りのはずだが、彼が明るい表情を見せるのは『さよならテレビ』が終わりに近づいてからだ。「セシウムさん事件」の際、『ぴーかんテレビ』のキャスターを務めていたのも福島アナだった。テロップの誤りに気づいた直後にお詫びの言葉を伝えただけでなく、その後の事故検証番組でも東海テレビを代表する形で頭を下げている。放送事故をなくそうと努める東海テレビだが、『みんなのニュース One』でも顔出しNGの人の顔がテレビに映ってしまい、やはり福島アナは番組の顔として謝ることになる。結局、『みんなのニュース One』は視聴率が伸び悩み、新年度からリニューアルすることに。福島アナはキャスターから外されることが決まる。重責から解放されたせいもあってか、スタジオを飛び出して取材する福島アナはようやく柔らかい表情を見せるようになった。
キャスターからレポーターとなった福島アナは、街歩きレポートで地元のおばちゃんからビールを勧められる。「仕事中なんで」と断っていた福島アナだが、おばちゃんに押し切られ、「じゃあ、ちょっとだけ」とコップに注がれたビールを口にする。「セシウムさん事件」以降、ミスしてはいけないという想いから、ずっと表情が硬かった福島アナの表情が緩む。視聴者と触れ合い、心のボタンをひとつ外した瞬間だった。ニュースキャスターでも、テレビ局の正社員でもない、福島智之というひとりの人間がテレビには映っていた。
その様子をモニターで眺めていた『みんなのニュースOne』のチーフプロデューサーが、ポロッと口にする。「数字がよくないとしても、このほうが面白いんじゃないか」と。このプロデューサーは、劇場公開されてロングランヒットしたドキュメンタリー『人生フルーツ』(17)を撮った伏原健之監督だ。スローライフを楽しむ老夫婦の心豊かな生活を描いた『人生フルーツ』の監督らしい言葉だった。
数字には囚われない、新しいテレビ番組の在り方を示唆する心温まるハッピーエンド。と思いきや、それを否定するようなドンデン返しを『さよならテレビ』は用意している。
土方「これからのテレビ業界は、決して明るいものではありません。それもあって、あえてブラックな終わり方にしています。自分が所属する報道部でカメラを回すのは、想像以上に大変でした。撮影に2年近く費やしたのですが、その間は自分が安心していられる場所は局内にはどこにもなかったんです。同僚たちからは厳しいことも言われ、僕ひとりでは番組を完成させることは到底できなかった。一緒に取材したカメラマンや音声マンといった仲間が励まし、助けてくれたことで、ようやく最後まで辿り着けたんです」
土方ディレクターは東海テレビの正社員だが、カメラマンや音声マンは東海テレビの関連会社の所属だ。さらに多くの社外スタッフが参加することで、『さよならテレビ』は完成することができた。『さよならテレビ』のさよならは誰に向けた別れなのだろうか。できることなら、これまでのフォーマットに縛られた退屈で窮屈なテレビづくりへの訣別の言葉であってほしい。
(文=長野辰次)
『さよならテレビ』
音楽/和田貴史 音楽プロデューサー/岡田こずえ 撮影/中根芳樹 音声/枌本昇 CG/東海タイトル・ワン 音響効果/久保田吉根 TK/河合舞 編集/高見順 プロデューサー/阿武野勝彦 監督/土方宏史
製作・配給/東海テレビ放送 配給協力/東風
2020年1月2日(木)より東京・ポレポレ東中野、名古屋シネマテークほか全国順次公開
※土方宏史の「土」は、正しくは「土」に「、」。
(c)東海テレビ放送
http://sayonara-tv.jp
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