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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.563

テレビ局の報道フロアは格差社会の縮図だった!? 視聴率に揺れるニュースの裏側『さよならテレビ』

「セシウムさん事件」は起きるべくして起きた?

土方ディレクターが提案した『さよならテレビ』の企画書。土方ディレクターの前作『ヤクザと憲法』(16)よりも前から構想は練られていた。

 ここからは、本作を企画した東海テレビの土方ディレクターと企画にGOサインを出した同じく東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーのコメントを挟みながら、よりディープに内容を探ってみよう。

阿武野「土方が前作『ヤクザと憲法』の企画書を持ってきた時もやめてほしいなと思ったんですが、今回はそれ以上にやめてほしいと思いましたね。私の定年が迫っていたので、できれば円満に平穏に還暦を迎えたかった。でも、土方から『テレビの今』という企画書を渡されたとき、私は『さよならテレビ』と呟いていたようです。同時に22年前、私もディレクター時代にメディアリテラシーをテーマにした取材を進めていた記憶が甦ったんです。Zネタなども扱った突っ込んだドキュメンタリーにするつもりでしたが、取材の途中で営業局に異動を命じられました。上司の逆鱗に触れたんでしょうね。私にとっては古傷のような企画を、土方はやりたいと言い出したわけです」

土方「阿武野さんが同じような企画を以前やろうとしていたことを知り、不思議な縁を感じましたし、今のテレビが抱えている問題を追っていこうと取材クルーとは確認し合いました。『ヤクザと憲法』などを撮ったので怖いもの知らずのディレクターと思われているかもしれませんが、そんなことはありません。デスクから怒声を浴びせられたときは、さすがにショックでした。同時にドキュメンタリーとして、面白い場面が撮れたとも思ったわけですが」

 従来の報道番組は、視聴率や営業部などの意向には左右されない「聖域」だとされてきたが、地方局のニュースの現場も視聴率0.1%の増減に一喜一憂する姿が映し出されている。かねてよりビデオリサーチ社の視聴率調査はサンプル数が少ないことが疑問視されており、関東地区のサンプル数900世帯よりも東海地方のサンプル数はさらに少ない。1~2%の視聴率の違いはあまり意味をなさないと言われている。ニュース番組のスタッフが、それでも細かい数字にこだわるようになったのはいつからだろう。

阿武野「営業が上げてきたZネタでも、ニュースとしての必然性のないものは取り上げたりしませんし、基本的には報道部のフリーハンドです。ただ、民放の報道の在り方は、その時々の、さまざまなせめぎ合いで大きく揺れるものだと思います。東海テレビの視聴率に関して言えば、東京キー局のフジテレビが好調だった80年代~00年代はずっとトップを走っていて、局内で数字を気にすることはまったくなかったですね。それがフジテレビの低迷のあおりで、東海テレビも地盤沈下してしまった。視聴率はスポットCM料金に連動するので、民放各局の収入に直結します。いま、テレビ業界は毎年300億円ずつ売り上げが縮小しており、地方局はいつ潰れてもおかしくない状況へと追い込まれている厳しい局面です」

 収入が減った分、テレビ局は採算効率を強く求めるようになり、その結果、大きな事故を招いてしまったと阿武野プロデューサーは振り返る。東海テレビが引き起こした大きな事故とは、2011年8月に起きた「セシウムさん事件」だ。東海テレビの情報番組『ぴーかんテレビ』の生放送中、視聴者プレゼントの当選者用のテロップに「怪しいお米」「セシウムさん」「汚染されたお米」と書かれたダミー用のものが誤って20数秒間にわたって放映されてしまった。東日本大震災以降、風評被害に苦しむ農家や被災地の人たちを傷つけることになった。

 この放送事故はSNSなどで全国に広まり、東海テレビには「マスゴミ」などの批判が殺到した。ダミーとはいえ不謹慎なテロップを書いたのは社外スタッフで、事件後に解雇されている。だが、阿武野プロデューサーは「あの事件は起きるべくして起きた。ジャーナリズムも、仲間を想う気持ちも、かなぐり捨て、金銭至上主義に突っ走っていた」と指摘する。『ぴーかんテレビ』をはじめとする東海テレビの番組の多くは、社外スタッフによって支えられている。立場の弱い彼らは深夜まで残業を強いられ、支給されるお弁当には古い米が使われてご飯が黄色くなっていたことを、阿武野プロデューサーに耳打ちしたスタッフが事故後にいたという。事故を招いた社外スタッフは、お弁当などの当時の制作環境に不満を感じていたのだろうか。契約社員、派遣社員よりも、さらに不安定な条件で働く社外スタッフという存在が浮かび上がる。

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