消耗品ではない、アニメーションの豊かな可能性 新作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
#パンドラ映画館 #この世界の片隅に
この世界を豊かにするもの
日本政府が「クールジャパン」として後押しするアニメ産業は、近年ますます華やかなものとなっている。今の日本の映画界は、アニメ作品によって支えられているといってもいいだろう。だが、どんなに企画開発やアニメーションづくりに手間暇を費やしても、劇場公開が終わり、ソフト化された後は、忘れ去られてしまう作品がほとんだ。二次元の世界にアニメーターたちが汗水流して命を吹き込んだアニメーションが、単なる消耗品となってしまっている現状がある。
今回の『さらにいくつもの片隅に』の試みは、常に新しい情報、新しい刺激を求め続ける消費社会への、片渕監督なりの闘いのように思えてならない。すずの失った右手が、片渕監督を『さらにいくつもの片隅に』へと導いたのではないだろうか。
この世界には、さまざまな片隅が存在し、それぞれの片隅がお互いを認め合うことで、この世界は成り立っている。そのことに気づいた瞬間、自分のいる世界はとても豊かなものになる。それぞれの世界が豊かなら、戦争をする必要もない。片渕監督の作品は、そんな当たり前のことに気づかせてくれる。
ひとつの物語を、違った視点を交えて繰り返し味わうことで、新しい発見が生まれ、より豊かな物語へと熟成されていく。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の劇場公開は、そんな贅沢な楽しみ方を観客が体験する場となっている。
(文=長野辰次)
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
原作/こうの史代 監督・脚本/片渕須直 音楽/コトリンゴ
声の出演/のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、花澤香菜、澁谷天外配給/東京テアトル 12月20日(金)よりテアトル新宿、渋谷ユーロスペースほか全国公開
(c)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト<https://ikutsumono-katasumini.jp>
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