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日刊サイゾー トップ > 社会 > 事件  > 伊藤詩織さん勝訴、どんな影響

伊藤詩織さん勝訴、強制性交の犯罪成立から女性を守る上で、どのような影響を与えるか

世界では、犯罪成立要件を排除する方向に

 さて、刑法第177条(強制性交等)および第178条第 2 項(準強制性交等)では、犯罪の成立に暴行・脅迫、抗拒不能・心神喪失が要件となっている。これらの要件が認められない場合には、訴追や起訴されても無罪となるケースが多い。今回の詩織さんの事件に関しては、犯罪の成立のための要件が認められなかった可能性がある。

 だが、世界の強制性交や準強制性交では、犯罪成立要件を排除する方向に進んでいる。例えば、欧州評議会が策定したイスタンブール条約(女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約)では、強制性交を含む性暴力について、故意に行われる次の行為を犯罪としている。

(1) 同意に基づかずに、身体の一部または物を他人の膣、肛門又は口腔への性的性質を有する挿入行為を行うこと

(2) 人に対し、その他の同意に基づかない性的性質を有する行為を行うこと

(3) 他人に、同意に基づかない性的性質を有する行為を第三者と行わせることと規定しており、「同意」とは「人の自由意思の結果として自発的に与えられるものでなければならない」と規定している。

 ポイントは、同意を「人の自由意思の結果として自発的に与えられるもの」としている点だが、その内容については条約批准国の判断に委ねられている。つまり、「人の自由意思の結果として自発的に与えられた」“同意”というものに対しての解釈は各批准国で決めることになるわけだ。犯罪の成立に暴行・脅迫、抗拒不能・心神喪失があったか否かが重要なのではなく、「同意があったか」が犯罪の成立要件となっているということ。

 同条約は、2011年5月11日に締結され、2014年8月1日に発効した。2019年12月現在47カ国が署名し、34カ国が批准しているが日本は署名していない。

 実は、法務省の「性犯罪の罰則に関する検討会」でも強制性交や準強制性交の犯罪成立要件から暴行・脅迫の要件を排除する検討が行われたことがある。しかし、事実関係を特定するために暴行・脅迫要因は重要な役割を果たしており、同要件を排除すると事件被害者の意思に反した行為が行われたという確信が得られない事例を処罰することになりかねず、刑事裁判の原則である「疑わしきは被告人の利益に」を歪めてしまう可能性があるなどの理由から排除が見送られた。

 詩織さんの事件が今後、強制性交や準強制性交等の犯罪成立から女性を守る上で、どのような影響を与えるのか、注意深く見守っていきたい。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

鷲尾香一の ”WHAT‘S WHAT”

わしおこういち

最終更新:2019/12/18 20:20
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