働くほど不幸になるシステムっておかしくない? 非正規雇用者を襲うアリ地獄『家族を想うとき』
#パンドラ映画館
真面目に働けば働くほど、生活は苦しくなり、幸せが遠のいていく。矛盾した話だが、それが今ある格差社会の現実だ。休みなく働き続けても、暮らしはまるで楽にならず、身も心もボロボロになってしまう。社会派映画の巨匠ケン・ローチ監督の最新作『家族を想うとき』(原題『Sorry we missed you』)は、下流層から抜け出そうと努める平凡な家族を襲う悲劇を描いたシビアな作品となっている。
主人公は英国のニューカッスルで暮らすターナー家の家長であるリッキー(クリス・ヒッチェン)。これまで多くの現場で肉体労働に従事してきたリッキーは、このまま誰かにこき使われるだけの人生はごめんだと、一念発起して個人事業主になることを決意する。リッキーが選んだ業種は、宅配ドライバーだ。大手宅配サービス会社とのフライチャンズ契約だが、自分の力量次第で大きく稼ぐことができるという。ネットショッピング全盛の今、仕事はいくらでもあった。
リッキーの妻・アビー(デビー・ハニーウッド)は、パートの介護士をしている。リッキーは業務用のバンを購入するためのローンを組み、アビーがそれまで使っていた愛車は手放すことになる。「2年間我慢して働けば、念願のマイホームが手に入る」というリッキーの言葉に渋々ながら従うしかなかった。各地に暮らす高齢者や障害者たちの自宅を訪問するのにアビーはバスを利用することになり、1日の多くを移動時間に奪われてしまう。
リッキーは朝早くから宅配便の集配所へと向かい、1日14時間、無遅刻無欠席で働き続ける。宅配便は届ける時間が細かく指定されており、道路の混雑や駐車スペースがなかったなどの言い訳は許されない。あまりの忙しさにトイレに行く暇もなく、車内に用意した尿瓶で用を足すしかなかった。一方のアビーも、厳しい状況に追い込まれる。痴呆症の高齢者に、アビーの家庭の内情は理解してもらえない。移動時間を考えると、どうしても手際よく仕事を進めなくてはならないのだが、相手は感情を持った人間であり、流れ作業で済むものではない。高齢者も障害者も自分の本当の家族のつもりで接してきたアビーは、つらい日々を過ごすことになる。
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