「CIAの諜報員はあまり優秀ではない」暴露を“正当化”するスノーデンの危険な自伝
#エドワード・スノーデン #書評
思いのままに「のぞき見」していた米国
その記事は「PRISM(プリズム)」という大規模な監視プログラムについてだった。NSAが、名だたる米大手IT企業から個人の情報やコミュニケーションに、思いのままアクセスしてのぞき見していたことが暴露され、米国では上を下への大騒ぎになった。暴露後に当該企業が方針を変えてセキュリティを強化したことを鑑みると、スノーデンの行動は米国の傲慢な監視活動に一石を投じたといえる。彼はそれこそが暴露の動機だったと主張しているので、ある程度の役割は果たしたのである。
その後、米国や英国、ドイツを中心に次々と明らかにされるスノーデンがらみの暴露記事や関係書籍も精読した。ドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』(14年)は封切られてすぐに米国の映画館で見たし、オリバー・ストーン監督の映画『スノーデン』(16年)などももちろんチェックしている。彼の活動家としての「英雄像」も十分すぎるほど作り上げられたと感じていた。
そんなことから、この本の出版を知った際にひとつの疑問をもった。彼がなぜ今この本を出版する必要があったのか、だ。その答えも探しながら、本書を読み進めた。
結論を先に言うと、スノーデンは自らの行動を改めて正当化し、自由のないロシアに閉じ込められているという現状を打破したいのではないかということだった。彼は19年9月に米テレビ局のインタビューに応じ、「私の最終的な目標は米国に帰国すること」だとはっきりと述べている。
その目標に向けて、自分の言葉で世界にアピールしたかったのではないか。
本書では、同情を誘うようにスノーデンの人生がなぞられていく。両親は離婚し、高校をドロップアウト(中退)する。鬱(うつ)など苦境にありながら、米国への愛国心をもって陸軍に入り、そこから諜報機関に移って頭角を現すが、病気を発症するほど苦しみながら米国のために働いたと書く。
さらに自らを正当化する記述は随所に見られる。彼のような外部からの契約局員が米諜報機関を支えてきたということ。そして、その契約局員の中でも自分がインテリジェンス・コミュニティで抜きん出て評価されていたこと、などである。CIAの諜報員はあまり有能ではないとまで主張する。
スノーデンは本書が出た直後、世界の反応として、欧州ではフランスやドイツが彼を亡命者として受け入れるべきだという議論になっているとインタビューで述べている。つまり、この本が呼び水となって、欧州の民主的な国でも、スノーデンを受け入れるべきという声が出ているということらしい。
とはいえ、欧米の諜報関係者の間では、スノーデンに対する不信感は根深い。私がこれまで取材をしてきたCIAやNSAの元幹部たちや軍関係者、同盟国の関係者らは、例外なくスノーデンについてかなり辛辣な見方をしていた。国に信頼されて機密情報やシステムへのアクセス権を与えられていたのに、それを裏切る者は裁かれるべきーー。それが彼らの揺るぎない主張だ。また、スノーデンの暴露によって、米国だけでなく、英国やオーストラリアなど同盟国のスパイ活動に多大なる支障が出たという。
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