Netflix『クィア・アイ in Japan!』はなぜ支持される? 「ビフォーアフター企画」との決定的な違い
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ファブ5は人を承認しにやってきたわけではない
一方で、男性にも、自己肯定することやセルフケアの重要性を感じた。特にラジオディレクターのマコトさんは、当初は、自分が何を考えているのか、自分の内面に目を向けて対話することのハードルを上げているように感じた。自分の気持ちがわからないと、他人にも遠慮してしまって対話ができない。それは、マコトさんだけのことでなく、同じような悩みを持っている人は多そうだ。日本では、距離を置くことが「優しさ」や「ルール」になっているところがあり、そこともつながっているようにも感じた。
しかし、不思議なのは、日本では、人との距離は置くというのに、ぶしつけな質問をしたり、見た目や性についてずけずけと立ち入ることには無神経な人がいるということだ。ゲイの自分に誇りを持てないカンさんも、自分がゲイと告白すると、日本ではすぐに性的なことを訪ねてくる人がいるという。前出の看護師のヨウコさんも、周りの人から「女を捨てている」と言われたことがあると語っていた。
ファブ5たちは、時には人の立ち入ってはいけないような深いところまで潜り込む。イラストレーターのカエさんと対話していく中で、彼女だけでなく、母親との関係性にも何かがあると思えば、そこにもちゃんと向き合うし、ラジオディレクターのマコトさんの夫婦関係にも切り込む。それは、日本で暮らす自分からすると、驚きでもあったが、人が抱える問題に深く入り込まずに、外見や住環境だけを変えたのであれば、日本で今までやってきた、数々の変身企画と変わらなくなってしまう。
正直、やはり私も他人との距離を置くことが自然と染みついている。だから、もしも私のところにファブ5が来たとして、自分のことをここまでさらけ出すことはできるのだろうかとも思ってしまったが、他人事とは決して思えないし、外見や住環境を変えるかどうかは置いておいても、自分のことを少しでもねぎらって生きていきたいと思えた。
ファブ5は決して人を承認しにやってきたのではないと思う。自己肯定感が持てない状況に気付かせ、肯定感を持てる手伝いをしにきたのではないか。だから、見た目や住環境を変えるのは、そのきっかけにすぎないのかもしれない。
本作の日本ロケが行われた際、雑誌やWEBの記者を集め、取材会が行われたそうである。そのときに質問した記者の中には、ファブ5に自分たちの状況を話すうちに、涙を流す人が続出したそうである。ファブ5を必要としている人は、日本にこそ無数にいるのだと感じた。
(文=西森路代)
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